俳句例:101句目~
夜の秋のそこの黄柏の文机/岡井省二
あめだきの鯉の切り口夜の秋/花谷和子
頓智坊ちふ狢の類も夜の秋/佐々木六戈
香奠にしるすおのが名夜の秋/飯田龍太
うつむける床几の人や夜の秋/野村泊月
お茶碗の唐津でありし夜の秋/黒田杏子
かくし貼る膏薬にほふ夜の秋/菖蒲あや
くぐり戸へ鈴付くる音夜の秋/羽部洞然
しづけさに慣れ山荘の夜の秋/稲畑汀子
しづけしと思ふばかりの夜の秋/上村占
その人を思ふにつけて夜の秋/高浜年尾
たたみの上にテレビ水音夜の秋/草田男
どの茶屋も皆静かなり夜の秋/野村泊月
ぬけて行茅の輪の先や夜の秋/松岡青蘿
をさな子の白地を見れば夜の秋/森澄雄
一と雨のありて山家の夜の秋/佐藤梧林
五月雨の或夜は秋のこkろ哉/永井荷風
伊予人の誰もが祖母似夜の秋/小泉洋一
何気なく灯に近づきて夜の秋/飯田龍太
俎板を立てゝ水切る夜の秋/池上不二子
俳句例:121句目~
元素記号子の諳んずる夜の秋/高澤良一
凭り馴れて句作柱や夜の秋/松本たかし
医局より夜を出て夜の秋の顔/飯田蛇笏
参歳の童子の騎虎図夜の秋/磯貝碧蹄館
右のもの左へ積みて夜の秋/小檜山繁子
名曲いま潮満つごとし夜の秋/楠本憲吉
味噌汁の香の何處より夜の秋/石塚友二
地球儀のうしろの夜の秋の闇/木下夕爾
坊守の予感に夜の秋の死者/赤松ケイ子
夜の秋のコップの中の氷鳴る/内藤吐天
夜の秋の山東角の燈見て行く/高濱年尾
夜の秋の影も生絹の往来かな/橋石和栲
夜の秋の汐流れゐる須磨の浦/倉橋弘躬
夜の秋の蠍座の尾を波の上/片山由美子
夜の秋の電話へいそぐ壁鏡/稲垣きくの
夜の秋や戸にはさまりし糸すゝき/柳芽
夜の秋わが書架貧しとはいはず/森田峠
夜の秋土鈴いづこの音ならむ/保坂敏子
夜の秋手拍子強くうたひをり/中村雅樹
夜の秋木曾福島の灯の見ゆる/田中冬二
俳句例:141句目~
夜の秋湯舟にのこるひとりかな/桂信子
夜の秋火だねのやうな女の目/長谷川双
夜の秋白絹の冷え手に残り/勝又星津女
夜の秋鯉の動きのしきりなり/中嶋秀子
哀げもまだほめく夜の秋の風/上島鬼貫
夜は秋の溲瓶にはかる尿の量/角川源義
妻死後を覚えし寝覚夜の秋/能村登四郎
家かげをゆく人ほそき夜の秋/臼田亞浪
宿はづれ急に山路や夜の秋/松本たかし
尿やるまもねむる児や夜の秋/飯田蛇笏
市街の灯見るは雲の間夜の秋/飯田蛇笏
幼子が嬰児を見てゐる夜の秋/水浜青大
手のひらの山繭愛づる夜の秋/衣川砂生
手を投げて女が睡る夜の秋/小島千架子
手を突きししとねのくぼみ夜の秋/千枝
旅にして狭斜に戯るる夜の秋/宮武寒々
旅馴れてトランク一つ夜の秋/星野立子
月もなき星もなき球磨夜の秋/阿部小壺
月琴の音締めきりきり夜の秋/高澤良一
死後に触れ父笑ひけり夜の秋/毛塚静枝
俳句例:161句目~
母の足思ひのほか長し夜の秋/金子秀子
母寝ねしあとも稿継ぎ夜の秋/鈴木栄子
汐焼けの膚のしまりや夜の秋/太田鴻村
海鳴りを淋しと聞きて夜の秋/藤松遊子
涼しさの肌に手を置き夜の秋/高浜虚子
涼しさは淋しさに似て夜の秋/藤松遊子
涼しさを添へてもの言ふ夜の秋/森澄雄
湖べりのホテルの芝の夜の秋/盛田清谿
火をさつととほす肴や夜の秋/太田寛郎
爪を切る音より夜の秋が来る/犬塚南川
物思ふよすがの湯浴み夜の秋/手塚美佐
犬去つて電柱の根の夜の秋/小檜山繁子
白樺に手触れてぬくし夜の秋/松田多朗
磧湯にこゑのあつまる夜の秋/白井爽風
老い先の幾齣よぎる夜の秋/藤原たかを
幼子のいつか手を曳き夜の秋/飯田龍太
自転車を漕いで灯点す夜の秋/高澤良一
花火屑踏んで往き来や夜の秋/行方克巳
草稿に手を置くことも夜の秋/高澤良一
蕎麦殻の枕かへせば夜の秋/木附沢麦青
俳句例:181句目~
西鶴の女みな死ぬ夜の秋/長谷川かな女
親牛に飼葉つぎたす夜の秋/宗像夕野火
遠き灯はつねに郷愁夜の秋/柴田白葉女
銀器に顔小さく住めり夜の秋/伊藤京子
雄物川夜は秋涸の瀬を鳴らす/皆川白陀
雨だれの間遠になりぬ夜の秋/増田龍雨
雨ならぬ葉ずれの音や夜の秋/下村梅子
夜の秋の吾が前うしろ隙多し/つじ加代子
土に鳴くものとわれとの夜の秋/木下夕爾
夜の秋の長き廊下を人来たる/石塚秋竹女
夜の秋の臼をつく音誰か死ぬ/加倉井秋を
夜の秋の網戸の内外火蛾いろ~/高濱年尾
夜の秋や主客の朱き箸置けば/岡部名保子
夜の秋やたやすく眠る旅童女/岡本まち子
夜の秋を顔のうつらぬ鏡かな/小島千架子
更くる夜の秋蚕の知恵の貌を見る/日原傳
夜は秋の星こそ見えね雲散らひ/林原耒井
夜の秋の雲をへだつる障子かな/飯田蛇笏
栓しめて水とぢ込めぬ夜の秋/猿橋統流子
白粥の湯気すぐに消ゆ夜の秋/福田甲子雄