俳句例:101句目~
春愁や逗子の肉屋の九官鳥/青木重行
春愁や轆轤はなれし生の陶/近藤一鴻
春愁や一升びんの肩やさし/原子公平
春愁や角のとれたる金平糖/山本淑子
春愁や覗く鏡にほつれ髪/高橋淡路女
春愁や水色淡きハーブテイ/山田暢子
虫に筆くはれしよりの春愁か/上村占
横たわり給う春愁の明太子/ゆにえす
春愁や蛇となる髪解き放ち/寺井谷子
春愁のはさみ使へば鳴る小鈴/上村占
春愁や薬臭に似し青インク/土生重次
春愁や荒男の馬のあらき性/細谷源二
盃にあふれしものは春愁か/鈴木鷹夫
春愁のほろほろ鳥は人につく/原和子
人伝の噂なれども春愁ひ/深見けん二
春愁や船霊抜けし船箪笥/磯貝碧蹄館
春愁や自動ピアノの音扁平/須佐薫子
春愁や一と日夕空街に澄む/中村汀女
春愁や殉教からむ開港史/下村ひろし
春愁のみなわれに向く波頭/永方裕子
俳句例:121句目~
春愁はポストの朱さかへりみる/原裕
春愁や臨水亭のおばしまに/田中冬二
春愁は人なき都会なき海/野見山朱鳥
春愁や膝の間のうまごやし/内藤吐天
春愁や眼鏡は球をふけば澄み/上村占
灯すも消すも春愁身ほとりに/有働亨
倉敷や春愁ここに極まれる/鈴木鷹夫
春愁ひ抗癌剤を飲むことも/塩田峯子
春愁や枕辺せめて花満たし/高橋淑子
共に春愁茶碗二つに茶の冷めて/林翔
半跏してけふ春愁の簗男/駒井でる太
春愁の独りの顔に戻りたる/遠藤君江
哄笑ののち春愁のほのかなる/有働亨
春愁の一語被て座しゐたりけり/昭彦
春愁や杉本瞽女の小さき髷/大野林火
春愁の何をとらへむ姫鏡/小島千架子
哺乳類に分類されて春愁ひ/進藤一考
春愁の友に船渠の暗渠あり/森川暁水
春愁や列車の窓に写す顔/小山さち子
春愁の同じ頁を読んでをり/松岡洋巨
俳句例:141句目~
春愁や紅引くときの老眼鏡/高橋妙子
春愁や等身大の須磨子像/片山由美子
春愁や山吹咲ける門を出づ/田中冬二
沙門の吾にも春愁許されよ/牧野春駒
春愁や眉寄せて聴く夜想曲/吉原文音
春愁や眉あきらかに保安帽/斉藤夏風
水動くとき春愁の杭となり/深澤伸二
春愁は巷の音も聞いてゐて/細見綾子
春愁の姑の用事をまづ先に/稲畑汀子
春愁の子の文長し憂へよむ/杉田久女
姿見を拭く春愁の息かけて/品川鈴子
春愁や病室の何に目を移さむ/斎藤玄
家具店に抽斗あまた春愁ひ/鷹羽狩行
残さるる弟妹春愁何せむや/松村多美
春愁や時くりかへす砂時計/栗屋孝子
春愁もなく千日前夕あるき/西本一都
春愁やくらりと海月くつがへる/楸邨
山椒の春愁の顔見とどむる/後藤秋邑
春愁の形それぞれ指の爪/片山由美子
春愁や日本恋しと書きし文/下村梅子
俳句例:161句目~
服脱いで春愁にやや目方ある/原雅子
春愁の背高き友を船と呼ぶ/攝津幸彦
春愁の断崖掴むところなし/後藤綾子
春愁や硯に海といふくぼみ/有川葉子
春愁や砂糖こぼるる喫茶店/今泉貞鳳
手の影が紙に近づく春愁/佐々木六戈
春愁の東洋人でありにけり/京極杞陽
拳握るのみや男の春愁は/能村登四郎
春愁ふ心世相につながりて/小林律子
あまりにも澄める眼コや春愁/松岡/潔
ありありと春愁の眉阿修羅像/倉橋羊村
かゞなへて春愁三歳四歳とも/石橋秀野
さきたまや片葉の葦の春愁ひ/小川さく
その人の春愁の句を覚えゐて/後藤夜半
何菩薩春愁華岳ゑがきける/水原秋櫻子
台本を丸める春愁も丸める/夏井いつき
司馬遷の秘めし春愁思ふかな/倉橋羊村
団欒の座にて春愁秘めにけり/茂里正治
多忙の身春愁なしといふは嘘/山田弘子
大阪の灯に春愁を深めたる/片山由美子
俳句例:181句目~
女工らの春愁荷縄むらさきに/香西照雄
子を泣かせわれ春愁の渦の中/能村研三
寺にある春愁犬猫共にくらす/中山純子
山の湯や吾が春愁の花昏れず/宇田零雨
憶良らは名を残したり春愁ひ/行方克巳
指の骨鳴らせしあとの春愁ひ/西川五郎
旅に生る春愁なれば旅に捨つ/大島早苗
春愁といふ胸中のにはたづみ/渕上千津
春愁と言ひ老愁と言はで置く/新家杳香
春愁と言ふ曲物が棲みつける/堺井浮堂
春愁にまさる妬心を讃仰す/赤松ケイ子
春愁に堪へず笑ひこかしたり/室生犀星
春愁に指のひとつは鳴らざりき/畑耕一
春愁に洗ひし髪は立ちて梳く/谷中隆子
春愁のうづ高きもの鼻となる/久野雅樹
春愁のかぎりを躑躅燃えにけり/秋櫻子
春愁のからだ虚空に預けたり/矢神史子
春愁のけこけことかく鰹節/小島千架子
春愁のたばこ一本たはむれに/山田弘子
春愁のつーんと笹の葉が尖る/藤木清子