俳句例:201句目~
父と子の暮しに慣れて母子草/五十島典子
軒すぐに富士ある暮し葱植うる/安田春峰
瓶の梅咲いて静かに暮し居り/高野冨士子
絨毯の染みの真上で暮らしをり/櫂未知子
継ぎはぎのその日暮しや諸葛菜/高澤良一
梅雨茫々痴々呆々と暮しをり/築城百々平
胡麻干して戸毎相似し暮らしむき/北代汀
芦の花ここにも沼の暮しあり/深見けん二
花咲くを一人暮しに馴れて待つ/窪田佐以
花茣蓙に飾り気のなく暮しをり/辻本斐山
暮し向きさして変らず梅漬ける/松尾緑富
茶を点てる暮しに戻る九月かな/小島一舟
檜笠用ひぬ日とてなき暮し/宮城きよなみ
菜飯炊き誰にも気がねなき暮し/田中一石
正月を馬鹿で暮して二月かな/鳴滝-秋風
藍のみの暮しは立たず牛を飼う/丸山柳弦
残されてさくらの下に暮しをり/塩田峯子
蛙田にほとりす暮しにも馴れて/松尾緑富
豌豆むく主婦に暮しの飛躍なし/伊藤敬子
貝割菜二人の暮しに育ち過ぎ/佐藤ともえ
俳句例:221句目~
路地奥のしづかな暮し小鳥来る/笠松裕子
胡瓜植え山の暮しの變化日々/今井千鶴子
捨て切れぬ山の暮しや春田打つ/高村寿山
手にし見る砧打ちたる暮しはも/松尾緑富
慎ましき暮しに古りし伊予簾/中川和喜子
雛小さし雛の暮しの匂ひをり/河野多希女
雨戸半分閉めての暮し/こぼれ萩/秦操子
暮しばし縁迄にじる涼みかな/伊賀-祐甫
張合ひのありし暮しの目貼はぐ/高濱虚子
唐辛子吊り曲り家の暮しあり/久保田重之
うまうまと独り暮しや冷索麺/山田みづえ
鳥帰るひとにはひとの暮らし向き/加藤朱
鵯と暮らし鵯の言葉も少しずつ/阪口涯子
麦稈を焚く火の真紅その日暮し/平畑静塔
夕立に気づかぬこともビル暮らし/川俣藍子
猫と暮して唄えばほのと冬菜畑/北原志満子
夏至の雨山ほととぎす聴き暮らし/田村木国
啓蟄や間借り暮しの何時果てむ/加藤佳太郎
棕櫚の花人は暮らしの音をたて/北原志満子
牡蠣鍋や狂はぬほどに暮しをり/大木あまり
俳句例:241句目~
覗かるゝ暮らしに馴れて艀の子/西東州美子
ふるさとを遠くに暮らし踊り抜く/土井峰子
種芋も売つて大師に依る暮し/野見山ひふみ
角巻やみちのく暮し身につきし/今野貴美子
春駒や父祖の世よりの佐渡暮し/成瀬正とし
目高の子ふやして二人暮しかな/井上芙美子
水音は暮しのリズムつばめ来る/兼山き志枝
ひとり暮し増えゆくという都会の灯/林壮俊
冬のゆたかな雀の胸毛工場暮し/鈴木六林男
山日乗せ隠れ暮らしの紙を漉く/秋元不死男
短日の気息のままに暮しけり/阿部みどり女
川に沿ふ人の暮しやきりぎりす/中村まゆみ
ひたむきに雪の位相と暮らしをり/田中亜美
暮しの中の波音烏賊の白乾され/鈴木六林男
都市暮しやどかりほどの音たてて/中西夕紀
貧富なき暮しもよしや干菜汁/翁長日ねもす
まだ雪の暮しに慣れぬ子よいかに/黒川悦子
足るといふ事知る暮し足袋つゞる/楠井光子
秋は素朴な河口暮しの対話から/加倉井秋を
身じろがぬ富士と暮して畦塗りぬ/影島智子
俳句例:261句目~
蠅打つや暮れがたき日も打暮らし/中村史邦
わが知らぬ暮しが此処に煖炉燃ゆ/星野立子
やもめ暮しの厨は洪水後のごとし/土居漠秋
まねごとの暮しのけぢめ煤を掃く/上村梢雪
障子貼りながら子に聞く暮し向き/長岡幸子
隣り家もひとりの暮らし葱坊主/赤松シゲ子
寒鴉濃しひとり暮しは途中めき/北原志満子
気ままなる妻との暮し小鳥来る/深見けん二
韮雑炊いよいよ素なる我が暮し/小原菁々子
風呂吹の夜は一灯で足る暮し/野見山ひふみ
風蘭咲くつかず離れず子と暮し/長谷川秋子
風邪の妻しあはせうすく暮しけり/石原舟月
風鈴に何処へも行かず暮しけり/高橋淡路女
あらかたの暮らしの見ゆる吹流し/増成栗人
暮し向き小さくなりしよ飾焚き/殿村菟絲子
定年のあとの暮しやセル軽く/佐々木あきら
父と娘の暮らし紅梅目をひらく/永田耕一郎
夾竹桃の暑さに馴れて暮しけり/高橋淡路女
水仙挿して船室暮らしに似たらずや/鈴木栄子
盆の雨ほとけの父母と暮らしけり/西嶋あさ子
俳句例:281句目~
半丁を余す暮らしの冷奴/中村久美子「足跡」
なにほどか暮しに倦きて挿木して/五十嵐秀彦
つましく暮らし山茶花のうすべに/兼崎地橙孫
ぜいたくは出来ぬ暮らしの柚子一つ/西村和子
すぐ湯ざめしさうなひとり暮しかな/藤崎久を
水路交う暮らしの町のすぐ夏至に/佐々木らん
風の暮らしはじまる海女の懸大根/庄司とほる
わづかなる葉とでで虫の瓶暮らし/町野けい子
残りものみんなおじやになる暮らし/磯部芳子
蛍川までひとの暮らしの灯をよぎる/内田美紗
昨日につゞく死の雨の夜工場暮し/鈴木六林男
蚊帳たゝむ独り暮しも慣れにけり/高橋淡路女
野火消えてより八方の暮らしの灯/相沢有理子
栗を剥くふたり暮しを運命とし/鍵和田ゆう子
はこべ見るさびし暮しをおもはまく/森川暁水
生涯は異国暮しやほとゝぎす/スコット沼蘋女
心合ふ婢と茄子漬けて暮しけり/長谷川かな女
秋のあせもに暮らし過ぐして痒きかな/内田百間
簀戸入れて戸締まりもせぬ暮らしあり/上田一粒
独り暮らしに煤逃げなどはなかりけり/北村香朗