俳句例:201句目~
気の遠くなるまで生きて耕して/耕一郎
海を背に流人の如く耕せる/金箱戈止夫
春耕や時に咳き入る耕耘機/高木淳之介
春耕や熊野の神を住まはせて/鈴木太郎
漁夫耕す蛙鳴く田の貧しくて/大熊輝一
耕すやぼろんぼろんと時計鳴る/細谷源二
老婆胡桃のもとを耕し噴く浅間/西村公鳳
さきはひのもとも身近く春耕土/飯田蛇笏
白馬にして耕しの野にありぬ/波多野爽波
耕すや地の緊張をやはらげて/吉村ひさ志
耕すやこころ解していくやうに/柴田奈美
耕人のひとりは堆肥散らしゐる/皆川白陀
耕人のもの焚く煙火を打つては/石川桂郎
春耕のひとりは鳶に掠はれん/大谷碧雲居
不義の仔を孕みぬひたに耕せり/藤後左右
ドイツ人ドイツ耕しをりにけり/嶋田一歩
耕しの大和たなびくところなり/佐川広治
耕すやいりしほの鷺田にきたる/木津柳芽
春耕の土均らされて隣り合ふ/高久田橙子
耕せば動き憩へばしづかな土/中村草田男
俳句例:221句目~
耕人は立てりしんかんたる否定/加藤郁乎
やすらふや耕す土にひた坐り/池内たけし
春耕の子をいたはりて妻老いぬ/飯田蛇笏
春耕の振り向けば父消ゆるかな/小澤克己
樹海なほ果てざる国を耕せる/木村要一郎
春耕の鍬かたぐ柄に手をたれて/飯田蛇笏
はや不和の三日の土を耕せる/鈴木六林男
昏れ惜しみ去年より馴れて耕しぬ/及川貞
耕牛に仔牛もついて畔を跳ぶ/小原菁々子
さびしさのあかざの奥に耕せり/山本洋子
のびちゞむ雲や耕人うづくまる/高濱年尾
耕人に余呉の汀の照り昃り/長谷川久々子
この馬と耕して子ら育てあげ/箕輪/新七
履き替へし靴を揃へて耕せる/中戸川朝人
お天道さまにご奉公とて耕すや/佐野美智
宙に鍬ひかる耕しの深からむ/中戸川朝人
宍道湖につづく平らを耕せる/片山由美子
耕牛の四肢のうちなる没日かな/那須乙郎
ふてくされゐる耕牛や三鬼の訃/皆川白陀
耕しのあと歳月が追ひかける/小泉八重子
俳句例:241句目~
耕牛の水に尿する田の面かな/安藤橡面坊
耕牛の瞳が何ものも見て居らず/右城暮石
耕牛の腹びしよ濡れに嬬恋村/猿橋統流子
春耕や農に生き行く六十路坂/土屋みね子
冬耕人くちびるに血を滲ませぬ/大野林火
耕しに湖は明けゆく波きざむ/金尾梅の門
焼けのこる納屋出て老と春耕に/亀井糸游
耕牛の頸皺無学の祖父なつかし/香西照雄
筑波嶺を見る春耕の鍬立てて/和井田なを
耕牛へ牛小屋くらき口ひらく/青柳志解樹
夕影にたえて嘶かざる耕馬かな/飯田蛇笏
耕して寂寥ゆさぶりつくすかな/沼尻玲子
朝ひらき人と耕馬の髪みどり/秋元不死男
耕してそのあと忘れゐるごとし/宮津昭彦
雨歇めばたちまち出でて耕せる/林田与音
意を曲げぬらし耕牛の水を飲む/茨木和生
日かげりて遠き耕馬に悲憤見る/友岡子郷
耕ししあと放りある日にちかな/岡本高明
耕せし土黄に照れる枯野かな/楠目橙黄子
胴をもて耕牛鞭をかなしめり/榎本冬一郎
俳句例:261句目~
花の雲鈴を鳴らすは耕馬なり/金箱戈止夫
桃の木へ来て耕牛がぬすみ見する/桂信子
遠く赤く耕馬尾をふる真菰風/秋元不死男
耕す胸の女の厚さはばたく藪/林田紀音夫
降霜期耕人征きて家灯らず/竹下しづの女
没日の方や耕人近づく半歩半歩/岩田昌寿
土の上のひかりをまとひ耕せる/長谷川素逝
原野の耕しは真つ黒き帯一人の旅/寺田京子
みちのくの「人」の象で耕す人/平井さち子
とことこと耕馬につける仔馬かな/野村泊月
わが弾くに耕す土のひびきかな/池内友次郎
耕して寓居のわれを見知るらし/百合山羽公
耕牛の四肢おのづから水まつはる/右城暮石
健やかな糞して耕馬曳きはじむ/松倉ゆずる
羨しと指す耕馬の島は没り日塗る/友岡子郷
野の果の耕馬動いてゐるのかしら/山田弘子
金のこと耕牛の背に向きて言ふ/金箱戈止夫
畑耕すにはあらねども菜を間引く/飯田蛇笏
耕してふるさとを捨てぬ一俳徒/大木さつき
春耕のふたりのやがてひとりかな/石川文子
俳句例:281句目~
生くべくはかゝる焦土も耕せり/佐野まもる
清水のやうな沈黙地震の山耕す/加藤知世子
気負ふでもなくて春耕はかどれり/影島智子
耕馬ゆゑだんだん強くうたれたる/細谷源二
合掌造りの闇がうごめき耕牛覚む/加藤知世子
葡萄の種子反古に吐きつゝ筆耕す/島村元句集
耕人の下向けば白きまぶたなる/阿部みどり女
耕せば土にめがありはらわたあり/奥山甲子男
おもむろに耕牛の歩のはじまれり/徳永山冬子
つゆくさの瑠璃はみこぼす耕馬かな/西島麦南
さくらより照り降り気にかけ耕せる/関森勝夫
うち晴れし耕しさみずや獺祭忌/久保田万太郎
耕馬の顔よごれいよいよ悍馬めく/永田耕一郎
身ほとりにひかりを生みつ耕せり/古賀まり子
見えない道耕馬のあとから通れる道/磯貝碧蹄館
耕牛おそろし打たれて上眼づかいする/北原志満子
身起す耕牛亡き祖父の声「よいこらさ」/香西照雄
はるばるみちのく耕馬の眼には路傍のわれ/磯貝碧蹄館
土を耕して九十年の、この一塊の土に禮す/荻原井泉水