文字を使用した俳句

俳句例:101句目~

若楓昔の人はよき字書き/後藤比奈夫

霜柱癌といふ字を踏み砕く/永井龍男

花松や彫り字の浅く小宰相/高井北杜

左手は字も書けぬ奴百日紅/杉浦典子

凍鶴の凡字の如くたてるかな/龍岡晋

庭石を子の字はみだし春の昼/杉本寛

かいた字も影の様なり朧月/正岡子規

良寛のことに風の字囀れる/角川照子

初時雨初の字を我が時雨哉/松尾芭蕉

大の字に寝て一畳の九月尽/土生重次

雪汁のしの字に曲るかきねかな/一茶

頭は錨沈め沈めと字の鎖/八木三日女

十七字みな伏字なれ暮の春/三橋敏雄

心の字を写すに難き夏書哉/正岡子規

帆船の雁字搦めや天炎ゆる/松本道宏

雪折やてのひらにのる風字硯/上村占

半夏生苺といふ字毒と読め/行方克己

雪の朝二の字二の字の下駄の跡/捨女

羅や相思てふ字を金で剌す/松瀬青々

大の字に寝て高楼の青嵐/山岸莎舞浪

俳句例:121句目~

口切や筆字優しき招待状/山川よしみ

経文に多き無の字よ春の雪/中尾杏子

遠足の列に切字となる教師/能村研三

道鏡と虚子と字を書く蓮の闇/上村占

大の字の我が寝姿や春の雁/高柳重信

大名の字を桃のはたけかな/水田正秀

大文字草と写経の百千字/百合山羽公

布団干す女くの字に雲の峰/鈴木鷹夫

孑孑といふ字きくきく立泳ぐ/牧百合子

字を思ひ出すため遠き青嶺見る/角光雄

寒といふ字のー劃々々の寒さ/富安風生

V字谷空より紅葉なだれ込む/宮田俊子

山墓の見えぬ字ばかり虎つぐみ/原天明

川の字に寝て中長き海月の夜/如月真菜

干梅の怨の字に似る一つ見ゆ/中村和弘

年賀状ああこの人のこの癖字/高澤良一

心字池に所を得たり源五郎/大谷美智子

心字池心字を習ふ水すまし/百合山羽公

忍の字の読み方知らず夏休み/加藤静江

快晴の二字に始まる初日記/長崎小夜子

俳句例:141句目~

指先をくの字に曲げて水の秋/対馬康子

あら壁や水で字を吹く夕涼み/内藤丈草

掃苔や一世の墓の日本文字/左右木韋城

掛軸に禅の字坐る風炉茶かな/田島勝彦

接岸の船のロシア字冬かもめ/大竹欣哉

日頃字の読めぬ女や歌加留多/羅蘇山人

口福といふ字ありせば新走り/大野崇文

時雨るるや象の字多き普賢経/有馬朗人

松の内臍という字の胡乱なり/寺井禾青

梵論字の前かがみなる落し水/宮坂静生

榾の火や童子に課する三字経/中川四明

残菊や壁の字誰も読めずをり/桜井博道

母の字の一字残らず母の忌に/右城暮石

春晝を遅々と字を生む原稿紙/吉屋信子

炭俵どこより雁字搦め解く/加倉井秋を

爪を切るをんなひの字や近松忌/林香稟

父の字の南無阿弥陀仏墓洗ふ/大橋敦子

父の字の日付け入りなる種袋/菊地利子

玉虫の飛ぶ一の字の光かな/広瀬美津穂

白はえや写字する窓の時明り/正岡子規

俳句例:161句目~

白玉や虚子に似る字も偽手紙/筑紫磐井

せがまれて字のなき絵本読始/嶋田一歩

白を切字のごとく掌にひろふ/伊藤敬子

眼鏡ふとく口が一の字接木翁/河野静雲

ただ二字で呼ぶ妻のあり菊膾/亭畑静塔

福達磨口をへの字に売れ残る/伍賀稚子

秋の日に心の字浮けり写経石/三宅句生

秋夕焼「大」の字残る山肌に/小川晴子

つくづくと寶はよき字宝舟/後藤比奈夫

秋風や切字とひびく師の言葉/岩崎照子

稲妻はかかはりもなし字を習ふ/及川貞

突堤に朱の字われらの夏終る/友岡子郷

笠にせよ千といふ字を旅の秋/上島鬼貫

老の字の虫のやうなる初日記/富安風生

ひと字に二つの姓や粟刈れる/沼澤石次

ふりしぼる字の痛々し草紅葉/長谷川櫂

花おぼろ遺句の切字の重きかな/渓槐三

菖蒲園くの字曲りの渡り板/石井並々子

葱刻む妻に字を聞き著者校正/河野頼人

薄倖の字の美しき賀状かな/五十嵐播水

俳句例:181句目~

薄氷や切字一句を引き締める/丸山嵐人

薫風といふ字立派に一書簡/宇多喜代子

複雑な薔薇の字今夜の動乱報/伊丹公子

貧農にかへりて昼寝大の字に/石川桂郎

鍵の字に湯治棟あり初すすき/高澤良一

陽炎や母といふ字に水平線/鳥居真里子

雪の日は黄の字想う黄濁愛す/金子兜太

零といふ字を書初めにして父は/皆吉司

霧破れ頂上の標の字ぞ見ゆる/相馬遷子

青邨忌よの字橋より粉雪かな/小原啄葉

ドアノブの朱字使用中秋の暮/狐野/武

風吹てくの字にまがる雁の棹/正岡子規

鬱の字を崩して遊ぶ石蕗の花/鈴木鷹夫

鯛焼のへの字の口を結ぶかな/大橋敦子

鰻屋の字のくろぐろと花吹雪/仙田洋子

鳴く亀もをるべし雨の心字池/幼方和雄

黒南風を航く丸の字は浪の下/中村鈍石

黒板に拭き残りの字そぞろ寒/加藤憲曠

黒板の字のうすれゆく目借時/田谷芳江

黴といふ字の鬱々と字劃かな/富安風生