俳句例:101句目~
唇に秋漂へる言葉かな/阿部みどり女
皿乾くガラスに残る夏の唇/対馬康子
唇に薬つめたき清水かな/阪本四方太
秋蝉に今日は声為す妻の唇/伊藤松風
清明の唇につめたき笛習ふ/飯田綾子
唇に香水の香のうつりをり/仙田洋子
唇に鰭酒あたりそめにけり/石田勝彦
唇のうすき女や四月馬鹿/入船亭扇橋
暖房に唇かわく目覚めかな/稲畑汀子
笹子鳴く吉祥天の唇欲しと/木田千女
やや寒の笛に唇あて能役者/角川春樹
唇のつめたさうれし菊膾/松根東洋城
もの食べて唇ひかる針供養/長崎玲子
古戦場信濃の粉雪唇にふる/西本一都
もの言へば雛も唇寒からむ/行方克巳
猿梨を噛んで唇熱くなる/加藤知世子
四歳の唇の大きさ巴旦杏/松田ひろむ
海蜷を眉か唇かと拾ひけり/岡井省二
七夕の紙の音して唇ひらく/飯島晴子
もの乞ひの唇赤し曼珠沙華/岩田昌寿
俳句例:121句目~
塩辛き唇もて吹きぬ風車/磯貝碧蹄館
仏唇に朱の残りをりうららなり/林翔
糸屑を唇にあてたり春炬燵/石橋秀野
声なくて唇うごく暮春かな/綾部仁喜
唇へながれてきたり蜘蛛の糸/中田剛
杳かなる霧や鳩笛唇にあつ/横山白虹
上りつめて唇莟し野分坂/島村元句集
夏の雲湧き人形の唇ひと粒/飯田龍太
毛虫焼くとき美しき男の唇/渋川京子
死ぬるほど蓬負ひけり唇の塩/齋藤玄
ひれ酒をのむ唇をゆるすごと/赤松子
綻びる前は火の唇梅の花/伊丹三樹彦
痺れたる唇のままなる雪濁/折井眞琴
苔くさい雨に唇泳ぐ挽肉器/赤尾兜子
榾の主唇かはきいたりけり/椎橋清翠
唇を吸ふごと白桃の蜜すする/上村占
夜焚火に唇熱し今を生き/櫛原希伊子
熱帯静かなるとき唇合はす/星野紗一
掛茶屋の酒に唇灼くだるま市/町淑子
まくなぎを唇にあてたる独言/石田波郷
俳句例:141句目~
うたた寝の母の唇より水の音/中村孝史
かげろふやバターの匂ひして唇/小澤實
はたはたや妹が唇すふ山の径/山口誓子
ひとめぐりして唇乾く午祭/蓬田紀枝子
唇あつるコップの厚き砂糖水/富安風生
コスモスの花ゆれて来て唇に/星野立子
マスクとり唇あでに生れけり/吉屋信子
三月やレモン噛み来し妻の唇/草間時彦
不作海苔干しつつマンボ唇を洩る/原裕
今年竹昏れがての唇ひかりけり/岸田稚
冬の唇アルミニウムと発音す/山西雅子
凌霄花の唇ひたすにはたづみ/池元道雄
古雛の唇と笛とのあはひかな/奥坂まや
唇づけて子の髪にほふ復活祭/大石悦子
唇に似て草ぼけのつぼみかな/飯村周子
唇の二枚を合はせ吹く空蝉/沼尻巳津子
唇の荒れて熱ひく二月かな/鈴木真砂女
唇の荒れの久しく冬来る/阿部みどり女
唇の謀叛寒椿落ちにけり/佐々木耕之介
唇もとのつれて人見る蜆掻き/松村蒼石
俳句例:161句目~
唇噛んで阿修羅は若し朝の虻/山田孝子
唇荒れて病めり夏山雲の中/石橋辰之助
唇見せて浅蜊の殻は割れてあり/日原傅
墓参坂唇に降りにわか雨の味/寺田京子
夕雲雀聖書読む唇うごきをり/小川軽舟
天高く唇とがらして窓を拭く/菖蒲あや
夫とゐて冬薔薇に唇つけし罪/鷹羽狩行
唇ほのと仏芋の葉ごぼうの葉/古沢太穂
女の唇十も集めてカンナの花/山口青邨
子に頒つ苺のひとつ妻の唇に/石川桂郎
学費滞納唇つけ食らふ幹の雪/宮坂静生
小さき唇結びなほして入学す/藤田千代
年よりの唇いやしたうがらし/黒柳召波
強東風や唇をよごして五平餅/古館曹人
探梅や温泉の塩味の残る唇/ふけとしこ
早春の首都/唇より種を出す/松本恭子
春の雪ぼたぼた降るよ唇乾く/椎橋清翠
春光の唇にもありて出勤す/蓬田紀枝子
木枯をききとめて唇乾く夜ぞ/岡田貞峰
枇杷の花唇あつき独逸語教師/二村典子
俳句例:181句目~
桑の実に唇の汚れし遍路かな/水内鬼灯
水おぼろ首あぐる馬の唇鳴りぬ/瀧春一
浅間嶺に唇ひびかせて泉呑む/宮坂静生
浮氷まひるの妻の唇咲けり/磯貝碧蹄館
無花果にユダの唇染めにけり/岡澤康司
無花果を食ふ唇を厚くして/殿村菟絲子
独楽の紐締むるに唇を一文字/山田弘子
男にも唇ありぬ氷水/小川軽舟「近所」
病むひとの唇を読む寒さかな/嶋田麻紀
病人が唇あけてゐる花ぐもり/長谷川双
白靴やサティのワルツを唇に/仙田洋子
祭酒海女の金歯の唇ゆるび/冨田みのる
竹伐つて積む断面がOの唇/田川飛旅子
笠ぬちに仄と唇あり風の盆/勝尾佐知子
綿虫を唇に当てたる身の弱り/清水基吉
美術展はじめに唇を処刑せり/大屋達治
致死量の毒と思いて唇吸えり/大井恒行
花の夜の唇うすくひらかれて/平井照敏
葬花鳴る北風へ向へば唇乾く/古市絵未
眉毛濃き乙女の唇に薔薇一つ/今泉貞鳳