俳句例:201句目~
月出でてしばらく沼のくらさかな/予志
青鷺は夜とわかるゝ沼を翔つ/石井白村
ありありと没日の沼の泡立草/尾林朝太
沼囲む樹々なまめきて朧かな/永井龍男
水温む沼辺に顔を持ってゆく/高澤良一
沼の日とひもすがらあり楮刈/橋本鶏二
青田中風生む沼のありて光る/河合凱夫
沼出でし流速を超え蛇泳ぐ/平井さち子
うしろ手をつき沼人と春惜む/浅倉里水
うす~と月の暈あり沼の上/五十嵐播水
霧氷林日を得て沼の瑠璃極む/巌谷小波
霜凪ぎや沼辺にいでし郵便夫/飯田蛇笏
雪加鳴く雲の白光沼に満ち/小川斉東語
雨兆す毘沙門沼に蛇が出て/矢嶋あきら
水鳥の沼が曇りて吾くもる/橋本多佳子
雁落ちて波ひとひらの沼明り/岡田貞峰
沼光る中に光りて蜻蛉生る/石井とし夫
闇の沼いくつ抱ける月の岳/八牧美喜子
煤じまひ沼夕栄の蔵の戸に/河東碧梧桐
この家を鴨ものそくや仙波沼/正岡子規
俳句例:221句目~
真菰刈りて水濁しある沼暑し/倉田萩郎
長沼といへる濁沼温むなり/大場白水郎
水鳥の沼をへだてて瞽女の道/佐川広治
鈴の緒に沼の日を縒る花の山/古舘曹人
沼五月雨の水輪の明るくて/斎藤佳代子
水鳥の沼曇りゆく仕方なし/加倉井秋を
さざめきて月の見沼の落し水/折笠二風
すきとほる赤立春の沼落暉/石井とし夫
金の入日沼に沈めて春待たむ/巌谷小波
野火走る先は沼なり走らする/宇田秋思
野分沼寝坊鴉が来てさわぐ/町田しげき
沼ベりも安食の町も小六月/石井とし夫
郭公や瑠璃沼蕗の中に見ゆ/水原秋櫻子
送り出て鷭の月夜の沼ほとり/橋本鶏二
沼の家灯れば鷭の雛も巣へ/石井とし夫
車前草を踏んずけて沼一巡り/高澤良一
白鳥の鳴きつつ集ひ沼晴るる/大塚宏江
身ほとりの沼潰さるる初閻魔/宮坂静生
どこまでも浅き沼かやゐもり居る/篠原
沼を逸れ婆銀紙となりにけり/星野昌彦
俳句例:241句目~
沼の水すこしもどりて囀れる/中村祐子
赤蜻蛉茫々と沼を拓きをり/大須賀乙字
木の実落ち幽かに沼の笑ひけり/大串章
白鳥の沼のほとりを郵便夫/田中憲二郎
豪華なる薔薇盛り沼を見はるかす/林翔
無の跫音の沼氷るひびきよ/富澤赤黄男
沼の雨太藺を打ってやゝ荒き/高澤良一
見沼野の荒鋤の田に雉鳴けり/森岡恵子
白雄忌の火取蛾一夜蔦沼に/鳥居美智子
東国の名もなき沼のかいつぶり/大串章
見えないが沼の鯰に綸垂らす/藤田湘子
沼ほとり無月明りといへるもの/梶尾黙
東西より道来て消えし沼の秋/西東三鬼
蜩の鳴き休む間を沼暮るゝ/石井とし夫
松の影の墨絵ににじむ沼の秋/寺田寅彦
みほとけに鷭鳴く沼の夕明り/大山百花
蘆枯れて沼は没日を放さざる/館岡沙緻
沼の家水鶏叩けば灯すなり/石井とし夫
板の如き沼に逆立ち鳰沈む/石井とし夫
沼辺より翔ちて蜻蛉の飛行艇/高澤良一
俳句例:261句目~
ゆきつきて雲を零せる冬の沼/松村蒼石
沢桔梗沼もその色欲しさうに/高澤良一
わが日在り落花漂ふ沼があり/中村苑子
蕗刈つて沼の謂れを忘じたる/田中隆子
林沼の日の静かさや花あざみ/飯田蛇笏
蒲の穂のつんつん沼は日のさかり/林翔
雁送り了せて寛き沼となる/平井さち子
バラ芽ぶき太陽いつも沼の芯/高井北杜
一ト風に隈澄める沼や烏瓜/大須賀乙字
一山も見えざる沼の良夜かな/浅倉里水
一月や夜の来るごとき沼の色/藤田湘子
万の雁容れ眠れざる沼の芯/吉野トシ子
蒲の沼しづまりかへる恐しさ/田中光峰
九年母や沼へ坂なす我孫子町/横手艸雨
沼空の逮夜花火や宗吾の忌/石井とし夫
五月雨や月夜に似たる沼明り/小川芋銭
五色沼その瑠璃沼の明け易き/山口青邨
河童沼すとんと昏れて遠野寒/曽根とき
河骨や息づまるまで沼平ら/片山由美子
沼空をつらぬく銀河虫時雨/石井とし夫
俳句例:281句目~
葭切に沼の月夜の青かつし/石井とし夫
葛飾や氷沼の葦の日を恋ふる/巌谷小波
枯沼に居る増えすぎた鳥達よ/対馬康子
落葉喰ひ沼に五尺の鮒棲むと/岡田日郎
冬に入る沼に吐息のごとき泡/伊藤京子
落栗や沼の雨月の夜に似たり/小川芋銭
菱採るや沼の暮光も掻き寄せて/堤京子
冬帝の撒く金銀に沼明けし/石井とし夫
冬沼に昼月といふ浮かれ者/町田しげき
狐火や闇の溜りし沼ほとり/石井とし夫
冬紅葉灯さぬ窓は沼のやう/岩淵喜代子
菱形に沼描きつづけ二月の死/宇佐美目
沼の子等蓮の葉笠に虹仰ぐ/石井とし夫
沸々と雹浮く沼のおもたさよ/三橋敏雄
沼に生れし青とうすみを胸にとめ/林翔
畑打に沼の浮洲のあそぶなり/芝不器男
北風吹いて沼の匂の網乾く/神宮きよい
印幡沼の幾重の雲にかへる雁/飯田蛇笏
古歌にある沼とて荻の騒ぐなり/森田峠
沼ふかき睡蓮は死と表裏して/古舘曹人