俳句例:201句目~
君ら漂着傷だらけの胸に本/河辺一葉
旅もどり旬日癒えぬ蚋の傷/大橋敦子
咳ひびく戦傷ならぬ傷を持ち/三谷昭
水槽の鮎のいづれも掛り傷/茨木和生
団栗にまだ傷のなき光かな/神野紗希
新酒酌む口中の傷大にして/櫂未知子
壮語みな傷つき戻る樹氷林/長山遠志
大切な指を傷つけ師走妻/柳本津也子
猪のとどめの傷と思はるる/行方克己
生涯の傷身にきざみ原爆忌/中村公美
男の顔の剃刀傷や春寒し/高橋淡路女
相討の深傷にて這ふ狐火へ/熊谷愛子
石工の指傷たるつゝじかな/蕪村遺稿
磨きあげ冬の鏡の傷を知る/毛塚静枝
秋すでに傷ふかく立つ床柱/中村苑子
稲妻や怒り狸は傷匂はす/加藤知世子
鼻筋の傷の雄々しき狩の犬/岩田公次
糶傷のばかりや朝ぐもり/大木あまり
糸で斬る生傷たえず糸取女/吉田芹川
繭玉や傷兵慰問の人派手に/岸風三楼
俳句例:221句目~
耳傷に山の陽山の深みどり/佐藤鬼房
聖女学院薔薇ありて壁に傷/辻田克巳
芒傷噛んでしばらく風の中/鈴木鷹夫
蓼咲くや油まみれの指の傷/古沢太穂
大幹に袈裟掛けの傷神の留守/藤岡筑邨
牡蠣を剥く迅さの傷と諾へり/河野美奇
大根に触れ難き傷ありにけり/辻美奈子
濃紺も寸時来る夜は傷の中/林田紀音夫
戦傷の足を踏んまへ放下踊/中戸川朝人
かぐはしき生傷にくる春の風/井上信子
海辺行く傷兵ら士官椿持ちぬ/渡邊水巴
女優来て唄へり傷兵雲を見る/岸風三楼
すさまじの黔き傷負ふ麒麟草/都筑智子
すすき野を深く傷つけ道匂ふ/細見綾子
すつきりと水仙に佇つ戦傷兵/萩原麦草
女教師の眉間の傷も夏めけり/清水哲男
海に還す水母の傷は海が医す/津田清子
たかんなや石斧は狩の傷をもつ/久保武
なまぐさき風の噴水靴に傷/小島千架子
水澄むやこころの傷を詐りて/石原八束
俳句例:241句目~
ひらくよりはや傷つけり木蘭は/堀葦男
ふぐ汁や傷寒論は燒きすてん/正岡子規
水仙を束ねて傷を濡らしけり/津根元潮
もう誰か触れし傷ある烏瓜/佐藤美恵子
歳月や傷の夫婦にさつき咲く/巌谷小波
榎また無数の傷に陽がしみる/坪内稔典
柿の木の深傷は成木責せしか/小島禾汀
フィルムの傷の雨降る銀河かな/今井聖
心にも傷あと深く五月癒ゆ/古賀まり子
春風の包んでくれし傷手かな/山田弘子
時効なき戦の傷や草いきれ/藤井つな子
己が傷を舐めて終りぬ猫の恋/清水基吉
傷付きに出掛ける犬も狩人も/櫂未知子
白芙蓉傷あとは身に深くあり/乾鉄片子
日輪の咬み傷額にさくらの旅/寺田京子
山青しひとにつけきし乳の傷/矢島渚男
月光に傷口みせて木が佇てり/福田葉子
手鈎傷眉間に鮟鱇糶られけり/奈良文夫
眼球の傷つくほどや葛茂る/波多野爽波
傷の絵の叫びよ紅葉散り急ぐ/雨宮抱星
俳句例:261句目~
十二神将みな傷けり枯すゝき/岡本松浜
石松の墓傷だらけ蟻のぼる/小田実希次
石積んで秋天に傷なかりけり/関口謙太
傷止をして冬山に圧されをり/萩原麦草
秋しろき戦傷兵と窓にわかれ/細谷源二
傷心の天昏ければちるさくら/河合凱夫
秋の天むらがりて鯉傷つかず/中島斌雄
秋の山傷のごとくに道のあり/橋爪鶴麿
秋光を傷つけてゐる蜻蛉かな/仙田洋子
傷の眼ひらく鯖晩齢の湾の色/赤尾兜子
傷にまた傷を重ねて独楽の胴/戸恒東人
傷なめて傷あまかりし寒旱/能村登四郎
山人の傷ひかりおり冬木立/森下草城子
傷つける園の冬木の眼にとまり/上村占
傷つけば匂ひ立ちたる芋虫は/如月真菜
旅鞄傷だらけにて紅葉に酔ふ/細見綾子
稿了えてなお傷つきて野の霞/中島斌雄
同情に傷付きし日の雪のこと/櫂未知子
空ふかく深く柱を傷つけぬ/津沢マサ子
立冬の空やためらひ傷のある/柿本多映
俳句例:281句目~
傷つけてならぬ人の世名残雪/松尾緑富
傷つけし人もあるはず白木槿/倉橋羊村
傷つきも傷つけもせず春の水/松浦由佳
分封の去りたる空のひっかき傷/渋谷道
向う傷の痛み実盛忌を修す/鈴ヶ谷隆一
傷つきて深谷雪解見せあへり/松村蒼石
綿虫の寄る木は傷の深かりき/澤村昭代
傷林檎厩舎に届くクリスマス/斎藤節子
傷つきて李は甘き香に立ちぬ/丸山海道
老幹の傷そのままに寒に入る/小林康治
君といて傷つけている椎の花/岡田耕治
傷痕は西日曝しの咬ませ犬/伊丹三樹彦
腕白の手足の傷も夏に入る/柴田田鶴江
膝の傷見せてから泣く桃の花/高山邦夫
舌の傷刻々癒ゆる青き踏む/吉本伊智朗
色変へぬ松や昭和の傷深く/片山由美子
傷痕は耶蘇にも秋の深みけり/草間時彦
花あしび手首に子供の頃の傷/鳴海清美
花は葉に少し傷んで本戻り/片山由美子
花冷えの地に薪割りの傷残る/棚山波朗