俳句例:101句目~
新兵の靴引するや春の塵/尾崎紅葉
幅広のわが足形りに黴の靴/杉本寛
囀や靴の中より小石出て/藺草慶子
鼬罠あり戦争の靴の音/白石多重子
白靴を買ひ旅支度整ひぬ/矢嶋淳子
街に見て陸戦隊は靴固き/片山桃史
靴脱に女草履や沈丁花/水原秋桜子
靴磨き聖夜の隅で石となる/穴井太
蕗の薹靴の爪先傷つけて/岡田史乃
葉桜や木深き窓に靴工兵/西山泊雲
船長の白靴海を往来して/津田清子
梅闌けぬ紙もて拭ふ靴埃/北野民夫
靴を穿く今が一番寒い時/京極杞陽
桜蘂踏む靴裏に傷増やし/館岡沙緻
玄室へ靴の運びし春の泥/八染藍子
草虱靴にも付けて再会す/降籏幸子
花筵入水のやうに靴置いて/大牧広
靴の中に幾万の足秋の暮/加藤秋邨
東雲の刈萱の中靴ぬらす/谷村幸子
暖や遊船の舳の靴二足/島村元句集
俳句例:121句目~
青草に置く結願の足と靴/奈良文夫
青写真父の靴音近づきぬ/石倉啓補
露の未明鉄路を汚し女靴/寺田京子
忘年会一番といふ靴の札/皆川盤水
霙打つ家路見てゐる男靴/谷口桂子
花疲れ靴の埃に夕ごころ/吉屋信子
芭蕉忌の舟底で靴さがす足/澁谷道
子供の日小さくなりし靴幾つ/林翔
雪卸少女ならねど赤き靴/長谷川櫂
陽炎や破れ小靴が藪の中/飯田龍太
昨夜撒きし豆恪勤の靴の中/下川光子
杏匂ふ店過ぐ独りの雨の靴/小池文子
いさかひて夫の白靴まで憎し/堀恭子
東京へい行く懶さ梅雨の靴/石塚友二
松の花いつしか積る客の靴/前田普羅
枯れ急ぐ男ばかりの靴音に/影島智子
枯園や靴音家の中行ける/相生垣瓜人
やや尖る白靴妻はヴァチカンヘ/林翔
残る虫一夜泊りの靴しまふ/倉橋羊村
沢蟹の歩むその先靴で堰き/高澤良一
俳句例:141句目~
海にゐる我跣足なり君は靴/三宅麻子
点在の制動靴のみ白き冬/鈴木六林男
無惨やな人葬り来し黴の靴/小林康治
パリー祭白靴巌の上に脱ぎ/岸風三樓
父よりも子の靴大き雪解風/藤田枕流
玄関に雨月の靴の匂ひして/高澤良一
生身魂戞々と靴ならし来て/田中裕明
男靴そろへ灼かれる指の先/谷口桂子
畦痩せて靴を支へず金鳳花/小島昌勝
盆波や乞食靴を鳴らしくる/黒田杏子
秋出水少年のごと靴提げて/奈良文夫
土曜日の白靴を抱き麻工女/西本一都
秋天や上野は低き靴にせむ/中山洋子
秋晴や勤めの靴を揃へられ/椎橋清翠
秋高し草の貼りつく乗馬靴/三森鉄治
籠の人参ごろごろ女靴安売/星野紗一
置かれある靴ベラ白し寒椿/原田青児
職を追ふ呆け赤靴冬日沁む/小林康治
暑に負けて白靴の白日々たもつ/林翔
脱ぎすてし幼の靴に春の泥/小泉豊流
俳句例:161句目~
舟までの藁靴を貸す雪見舟/松本泰二
花寒し教師は常のズック靴/木村蕪城
花菜雨少女より購ふ刺繍靴/谷中隆子
草芳し女は靴を脱ぎて座る/藤松遊子
蕗のとう釣師の大き靴通る/小島國夫
白靴に岩礁はしる潮耀りぬ/飯田蛇笏
血の担架秋風は靴音に昏れ/片山桃史
観桜の靴占ひは晴れと出て/松岡裕子
白靴に朝焼けのして蘇鉄園/飯田蛇笏
白靴に男の過去は匂はざる/行方克巳
白靴に踏む浜砂の曇りたる/内藤吐天
白靴に過ぎし日の甦へる町/山田弘子
足の靴は宿直の枷春夜の花/大井雅人
踏青の靴を古草くつがへす/皆吉爽雨
踏青や底薄き靴足袋めきて/香西照雄
軍国の怒濤湧きたち靴繊し/藤木清子
白靴の一団お釜を覗き見に/高澤良一
軍艦に遅れて着きぬ赤き靴/攝津幸彦
辞す家の靴の中なる夜の秋/武田和郎
白靴の埃停年前方より来/文挟夫佐恵
俳句例:181句目~
白靴の小さい方が母のもの/黒川悦子
白靴の弾んでくれぬ旅の雨/稲畑汀子
退院の靴そろへられ法師蝉/横山白虹
白靴の淡き光に咳くひとり/赤尾兜子
道頓堀を靴流れゆく敗戦忌/木田千女
白靴の男出て来ぬ司祭館/星野麥丘人
郭公や靴に鞭挿し騎馬乙女/岡田貞峰
金の靴一つ落ちゐし謝肉祭/有馬朗人
雨靴をぬぎて雨夜の雛の宿/後藤夜半
雪渓や身を傾けつ靴緊める/河野南畦
三月の土間に大きな山の靴/成田千空
白靴の高さを若き躬に加ふ/池田秀水
雪靴と塩送り来し能登の人/細見綾子
雪靴に常の勤めの三日かな/相馬遷子
雪靴に添へて賜はる塩五合/沢木欣一
雪靴の気後れ雪のなき街に/稲畑汀子
雪靴の疲れ雪にて拭ひけり/北川英子
雲の峰学者の夫の靴減らず/多賀啓子
雷遠し聖堂に脱ぐ旅の靴/古賀まり子
仁王履く程の靴干し秋高し/吉村絹子