俳句例:201句目~
母の日に贈る母なし涙雨/小野久和子
凩が目にしむゆゑに涙ぐみ/下村梅子
母の目に涙見し日や牡丹の芽/源鬼彦
初笑ひゆゑの涙と思はれず/鷹羽狩行
北風に向ひ歩きて涙ふく/室町ひろ子
涙して僧俗一如御忌法話/横坂みよ子
受洗子の涙や麦の芽の一寸/江崎和子
古団扇涙の跡を見らるゝな/正岡子規
水草生ふ水の系譜は涙より/坂本宮尾
埋火も消ゆや涙の烹ゆる音/松尾芭蕉
堕天使のこぼせし涙竜の玉/横山郁子
売り声は蝋涙となる寒の夜/大井雅人
夏芝居果て蝋涙の溜りたる/品川鈴子
大泣きに月を宿せし子の涙/橋本榮治
女郎花笑つても出る涙かな/仙田洋子
妻の目に涙あふれ来天の川/加藤楸邨
姉泣けば妹も涙の朝ぐもり/堀口星眠
涙ぐむ心をおさへはるを待つ/原石鼎
汗寒く拝むや涙おのづから/石塚友二
子を思ふ雉子は涙のほろろかな/貞徳
俳句例:221句目~
子を荼毘に水禍の母の涙雁/橋本鶏二
家毀つ日の春の雨涙雨/阿部みどり女
寂しさや骨が涙であった頃/青木啓泰
寒ざくら涙の粒の揃ひけり/仙田洋子
寒風を来し目に少し涙ため/星野立子
尊がる涙や染めて散る紅葉/松尾芭蕉
少しずつ涙にじんで白絣/田中みち代
屠殺場の牛の涙す大暑かな/石原八束
山夜長寝ねし時のみ涙なく/福田蓼汀
幽霊草蝋涙凝りし花を垂れ/若木一朗
弓張月がこぼす婆裟王の涙/夏石番矢
待ちうけて涙見あはす時雨かな/かや
河はあせ山は枯木の涙かな/中村史邦
御正忌の蝋涙走らせし袴/赤松けい子
煮凝溶けの涙の流れけり/大木あまり
折からの攝待うくる涙かな/正岡子規
文月のまばたき涙乾かして/石井里風
旅愁とはつい涙する蔦青し/高木晴子
日の本の水城に落つる諸涙/夏石番矢
星月夜涙壺より砂いづる/小檜山繁子
俳句例:241句目~
涅槃図に小さき涙描かれず/菅原章風
春の風邪涙もろさの性かくす/杉本寛
春夕焼いつも涙は塩の味/伊東テル子
春寒き母の涙に誘はれし/五十嵐播水
春暁や足で涙のぬぐえざる/折笠美秋
春服の涙ともいふ真珠かな/岩崎照子
春燈に涙もふかずいましけり/上村占
晩年や左眼の涙を右眼容れ/永田耕衣
最悪の歳逝かむとす星ら涙/藤森成吉
朝顔に別れの星の涙かな/安藤橡面坊
朝顔や少女の涙すぐかわく/木村敏男
木に残る茄子は烏の涙壺/小檜山繁子
木洩れ日の冷えの一筋涙ぐみ/岸田稚
炬燵寝の妻の眼元の涙かや/京極杞陽
烈日の光と涙降りそゝぐ/中村草田男
煮凝や涙もろさは生れつき/青木謙二
熱燗のつんと涙の管に入る/仲澤輝子
熱燗の故の涙と晦ましぬ/深見けん二
牛の目に涙あふるる冬の海/柳葉光堂
物言へば涙あふれむ落葉踏む/樋笠文
俳句例:261句目~
生身魂きざす涙を笑ひ草/阿波野青畝
産卵の亀の涙が溶けた潮/八木三日女
病む馬に蝋涙冴ゆる夜なりけり/碧水
病めば遠し母の涙か風花す/小林康治
白重涙のしみのなかりけり/野村喜舟
目の下に涙ひとつぶづつ雛/田中裕明
眩しくて涙のあとの秋空は/山田弘子
眼帯に涙沁みつつ火事近し/白岩三郎
短日や病師はすぐに涙ぐみ/渡辺立男
秋の陽に涙脆さは右眼より/川崎展宏
稲無限不意に涙の堰を切る/渡辺白泉
米つきの涙見せたる涅槃哉/正岡子規
紅涙といふ美しさ山茶花は/松山足羽
紅涙をしぼりし恋や縷紅草/大井恒行
紅涙を流すがごとく椿落つ/下村梅子
紅葉を食べ残す偶然涙出て/山田緑光
紺碧の空の涙かいぬふぐり/室岡純子
絵姿に仕ふる秋の涙かな/高橋淡路女
耳までの涙痕手術後の午睡/品川鈴子
胼の手や暖められつうき涙/野村喜舟
俳句例:281句目~
臘涙の一滴花となる霜夜/千代田葛彦
臘涙を太らせ終り仏名会/小夫香久之
芥子坊主無垢の涙は大粒に/花田春兆
花の雨降るは涙かその人の/尾崎紅葉
花朧きらきらとある子の涙/対馬康子
花衣縫ひつゝ涙こらえつゝ/吉村敏子
葱坊主赤子に涙ありあまる/本宮鼎三
藪入やうれし涙をもらひ泣/松瀬青々
虎が涙雨てふ庭の草木かな/石川桂郎
虫干しの真中に坐り涙せり/庄野千壽
虹二重涙のやうな長女次女/栗林千津
蚊遣火に涙まぎらす別れ哉/正岡子規
蝋涙のぢぢと走れりお中日/大岡節子
蝋涙のるると木の晩仏かな/鈴木鷹夫
蝋涙の一滴花となる霜夜/千代田葛彦
蝋涙の一途重ねに牡丹の芽/有井祐子
蝋涙や金襴冷ゆる夜の柩/柴田白葉女
蝋涙を大出刃で削ぐ堂押祭/山崎羅春
蝋涙走る盆提灯を畳まねば/小林康治
「無類の妻」上木を手に涙妻/橋本夢道