俳句例:201句目～
額の花きれいな嘘を聞いており/近藤睦子
二つ三つ嘘見え泥鰌飼つてゐる/栗林千津
ポケットに嘘を隠して枯野原/友永佳津朗
寒しとは小町が嘘よほとゝぎす/高井几董
笑ひもて子の嘘ゆるす大向日葵/伊藤京子
汝は小犬青嘘のようにもう居ぬ/阿部完市
鷽替やどうせこの世は嘘ばかり/菖蒲あや
嘘はいや真赤な薔薇の棘ささる/伊藤道子
春雨の傘の中にて嘘を言ふ/長谷川智弥子
晩年とはいかなる嘘や石の上/宇多喜代子
河童忌の目ばかり渇く嘘の中/河野多希女
罌粟の花扁平に割れ政治に嘘/小松崎爽青
美しき嘘のやうなる冬苺/ともたけりつ子
嘘の語尾乱れ斑雪となりにけり/谷口桂子
嘘でもよし松蝉に買ふ長寿箸/長谷川秋子
生きるため少し嘘つくかたつむり/伊藤義夫
うろたへて嘘言ふ老母のつぺい汁/草間時彦
おのが詩の嘘惧れをり小鳥来て/平井さち子
とりとめもなくつく嘘や絹絲草/八幡城太郎
なめくぢり嘘かまことか一文無し/丸山嵐人
俳句例:221句目～
ぬけぬけと息白き嘘をとこなり/稲垣きくの
素馨挿すアラブボーイの嘘聞きつ/小池文子
春の雪子はいそいそと嘘を云ふ/小島千架子
ビール酌み嘘も真も聞きながす/福永みち子
カンナ燃ゆ女は小さき嘘をつき/田村登喜子
サングラス掛けその人の嘘見抜く/柴田奈美
悴かみてちひさな嘘が言へぬなり/香西照雄
柿の芽や嘘かと晴れし昨夜の雨/篠田悌二郎
嘘ついている梨の実のみずみずし/森田智子
寒き夜の嘘泣きをして児の甘え/伊藤トキノ
天使の喇叭綺麗な嘘を吐いてゐる/丸山嵐人
梨をむくをんなの嘘を知つてゐる/岸風三楼
病む妻に嘘いくつ言ふ枇杷の花/能村登四郎
子の嘘のみづみづしさよみかんむく/赤松子
春の夜のぐい呑みふたつ嘘ひとつ/石川桐子
嘘云はぬためマスクとり物を言ふ/村上冬燕
枇杷の種ぽろりと嘘も濡れしまま/中尾杏子
脱参り嘘のつじつまあはせけり/成瀬櫻桃子
木の葉髪をとこまさりと云ふは嘘/福永鳴風
亀鳴くや昨日のまこと今日の嘘/櫛原希伊子
俳句例:241句目～
咲く咲かぬ花にも嘘の世なりけり/正岡子規
パンジーの黒き瞳にある嘘すこし/田川信子
鷽替へてもう嘘ついてをりにけり/藤岡筑邨
葱坊主/あっけらかんと/嘘をつく/山本公代
二分咲きの梅と聞きしが嘘ばっかり/高澤良一
夏帯やつくつもりなき嘘をつき/久保田万太郎
雑木に雨あまたの嘘が濡れており/山本奈良夫
母の嘘なつかし地蔵盆の闇怖ろし/河原枇杷男
ぬけ参り嘘のつじつまあはせけり/成瀬桜桃子
着ぶくれてゐて愛などと真赤な嘘/伊藤トキノ
嘘言つてみたくてうしろ手秋風裡/平井さち子
子の嘘は飛ばすよ風船かづら吹き/上田日差子
嘘をつくや草矢につゞくあづまはや/加藤郁乎
チューリップわたしが八十なんて嘘/木田千女
嘘の髪かぶりて泣けりしぐれ通夜/平井さち子
霜焼にかこつけ嘘をいふあはれ/阿部みどり女
水やうかんぬるりと嘘を聞いてゐる/中村菊一郎
俺が老いるとは嘘のようだが老いている/田中陽
ひらひらとコスモスひらひらと人の嘘/楠本憲吉
菓子崩すエイプリルフールの嘘もなく/行方克己
俳句例:261句目～
河豚の吻つき嘘ばっかしといふごとし/高澤良一
晴れて硬質の午前の嘘に立ちどまる/林田紀音夫
優しい嘘アイロン掛けをていねいに/阿部恵美子
水無月嘘あまた梅雨の女は木の椅子に/宇多喜代子
爐話の嘘をゆるす赤い馬車も出て来い/中塚一碧樓
木の根をみつめて嘘をついてしまつた/栗林一石路
うすもののみえすく嘘をつきにけり/久保田万太郎
嘘も一緒に飲み込んだ短日の苦いコーヒー/熊谷従子
まさしくけふ原爆忌「インデアン嘘つかない」/中村草田男
方代の嘘のまことを聞くために秋の夜ながの燠が赤しも/山崎方代
今日ここに杏子の花のはなふぶき嘘くれないに散ってゆくまで/福島泰樹
