俳句例:201句目~
旅ゆけば暮れはやく過去かへりこず/飯田蛇笏
充分にしあはせな過去河豚を煮る/古賀まり子
佳きことはすぐに過去ともなる余寒/辻口静夫
秋灯下瑣事より過去をくりひろげ/成瀬正とし
籐椅子のひとつ過去向き置かれけり/北村峰子
雪の足跡すぐに過去とし失せにけり/菖蒲あや
死にたしと迫りて哭きし過去の雪/稲垣きくの
稲びかり一途に生きし過去照らす/古賀まり子
猟銃音たちまち過去へ雪降りつむ/千代田葛彦
水中花けぶるごとくに過去ありぬ/加賀谷硯子
火祭見る恋はも過去のものとして/鈴木真砂女
心より過去消し日々の汗にも馴れ/鈴木真砂女
白粉花過去に妻の日ありしかな/きくちつねこ
棕梠咲ける高さに過去のわが教室/渡部ゆき子
黴のごと病み寝たりし日過去とせり/村越化石
風鈴やいそぎしりぞく過去ひとつ/赤松ケイ子
過去を定めむ一八のかながしらかな/加藤郁乎
炎天にいま逢ひそれも過去のごとし/目迫秩父
過去拘留孫仏の世よりの木の実かな/尾崎迷堂
罌粟よぎるもうひるすぎの足の過去/安井浩司
俳句例:221句目~
ふらここを少うし過去へ漕いでみる/竹内定子
過去未来まつすぐに降る蝉時雨/鍵和田ゆう子
覚えぬ過去知らない未来サングラス/西浦和子
さすらひし過去ふところにぬくめ酒/小原紫光
吐息過去がかけ込み乗車する/いまきいれ尚夫
きらきらと出遇ひしは過去芽吹なか/谷中隆子
花吹雪追ふは過去追ふごとくにて/保坂加津夫
茄子蒔きて誰もが耐へし過去を持つ/稲畑汀子
遠目して過去も枯野もからしいろ/石田あき子
柚きざみ人に煮炊きをせしは過去/稲垣きくの
過去となる薔薇散つてゐるときの間も/前島勢津
過去は切れ切れ桜は房のまま落ちて/橋本多佳子
アマリゝス過去が静かにつみかさなる/横山白虹
わが過去を知りたる蚯蚓鳴きにけり/松本夜詩夫
紫蘇の実に過去なる人の歩み来る/長谷川かな女
ほどく衣の過去たどりゐつ日脚伸ぶ/馬場移公子
それぞれの過去待つ毛糸編みなほし/秋月すが子
さざなみに過去はちりぢり寒牡丹/鍵和田ゆう子
きのふより過去黴ず在り祖母の記憶/村上喜代子
病臥悲歌炉の火ゆたかに過去燃やせ/古賀まり子
俳句例:241句目~
木の芽和過去ふりかへるゆとり得て/鈴木真砂女
音質の悪い同時通訳にて過去へ/たかはししずみ
茶屋のひとり椈に通ひ馴れたる半過去/加藤郁乎
きつき足袋過去より響きくるものあり/川口重美
花野ゆく過去となりゆく過去のこと/久保田洋子
相逢ひて過去はまぼろし黒シヨール/柴田白葉女
甘藷うすくむく飢ゑし過去ともにもち/玉城一香
手にとりて過去にひとしき日記買ふ/赤松けい子
凍てゆるみ過去みな同じ遠さにある/野見山ひふみ
あじさい闇/過去がどんどん痩せてゆく/大西泰世
土にいま落ちたおと椿一輪一輪が過去/塩野谷西呂
甘酒啜る一時代をば過去となし/原子公平「浚渫船」
白服を吊るし一日を過去とする/広渡詩乃「春風の量」
秋冷のとびらを敲く月よわが過去も愛する覚悟はあるか/松本典子
床屋にあごすらせると/どこか遠い過去が走っていく/袴田たけし
メスのもとにひらかれてゆく過去がありわが胎児らは闇に蹴り合ふ/中城ふみ子