俳句例:101句目~
夏の雲過去も病臥とつながりし/三好潤子
年忘れ過去は断片なるとき美/池内友次郎
褪せることなき過去のあり桜貝/寺島麻里
我に過去君には未来屠蘇を酌む/亮木滄浪
甘藷焼酎過去には触れぬ男達/塩田藪柑子
踊唄我等を過去に置き去りぬ/米沢吾亦紅
過去といふ青き匂ひの螢かな/つつみ眞乃
寝ねられぬ夜の籠枕過去が透く/池田蝶子
梅若葉無性に過去が枷となる/榎原富美子
過去は今満ち来芝生に秋日透き/細見綾子
百合の香と小過去吾を眠らせず/相馬遷子
過去は過去砂丘にとばす夏帽子/三橋迪子
過去ばかり犇めく枕夏の風邪/佐藤みさを
影産んで女は過去を踊るなり/鳥居おさむ
啄木忌過去にはふれず働かす/八牧美喜子
枯羊歯の一叢過去はすぐそばに/河野南畦
寄鍋に睦みて忘る過去のこと/鷲谷七菜子
ぼろぼろの過去張今日の揚羽蝶/中山純子
女正月過去のある背を流しあふ/信濃小雪
厚板の帯の黴より過去けぶる/橋本多佳子
俳句例:121句目~
過去清く持ち父は病む花の中/深見けん二
単衣着て過去より深い今がある/山中正己
死と隣る過去いくたびぞ震災忌/小幡九竜
水澄むや過去証すもの何かある/津田清子
遠き過去せんかう花火玉顫へ/篠田悌二郎
後添いの過去には触れず鳥渡る/太田秋峰
春の雪過去のしこりを帳消しに/登子葉山
雪女郎過去の不実の我が身にも/小原紫光
布団重し過去が責めくる胸の上/河野南畦
春暁の目覚めの中の過去古びし/しょう人
雲の峰過去深まつてゆくばかり/矢島渚男
露の世の幸を守りて過去未来/池内友次郎
餅を焼きゐる三人の尼の過去/田畑美穂女
麻雀に過去も未来もなきおのれ/藤木清子
心太まづしき過去を子は知らず/佐藤浩子
けふすでに過去となりゆく走馬灯/中村信一
この尼の過去ははなやか西鶴忌/田上多歌史
蒲団著て仏寂びゐまし過去ばかり/石塚友二
蓮の実飛ぶ失ひし吾が過去のごと/山田佐人
藤散るや過去むらさきに埋めんと/渡辺桂子
俳句例:141句目~
ひとつづつ過去となりゆく除夜の鐘/林民子
もみぢして過去と未来のあはひかな/朝妻力
われ彼を友と為ず夏木過去秘めて/下村槐太
シネマ観るひとふしの過去鮮かに/藤木清子
蜷の道過去はうすれてしまひけり/前山百年
メロンパンは過去真向いに冬木の芽/鷲田環
話すこといづれ過去のみ夜の新樹/岸風三楼
一つ一つ過去となりゆく霧笛かな/鈴木鷹夫
一つ音の法師蝉過去透きにけり/馬場移公子
乱丁のある過去といふもがり笛/文挟夫佐恵
軽く反る裏白過去を背負ひけり/松瀬むつ江
厄塚に過去をぽんぽん投げ入れる/山戸暁子
過去などは皆海が呑みあつい砂丘/遊田礼子
吹雪く夜や甦るもの過去ばかり/鈴木真砂女
過去に生きし老どち寄りて年忘れ/福田蓼汀
過去の月は沒し未來の月は出でず/正岡子規
土筆煮て過去がまつすぐ見ゆる齢/中村明子
夕東風や貝殻の過去ひびかせて/堀井春一郎
外套を着て過去のみがあたたまる/内藤吐天
過去は運にけふは枯野に躓けり/鈴木真砂女
俳句例:161句目~
寒風を一気に吸つて過去を吐く/河渕香保女
小津映画に過去呼びおこす冬銀河/村松弘美
懸け雛過去は淡紅色けむり来る/河野多希女
過去よりも今に悔もつ野火あがる/野澤節子
手に触るる麦を笛にし過去を絶つ/原田種茅
振返る花野の過去をみるごとく/稲垣きくの
掌に重もる栃の実の過去欝として/豊山千蔭
敗れ蓮過去あらあらとひるがへる/加藤晴美
数へ日にいきいきといま過去語り/村越化石
昭和は過去白りんだうの先充つる/松村多美
最果て夏どの過去よりも波荒く/山本つぼみ
過去消えて蜜柑むく人なつかしや/長内惠子
有るごとき無きごとき過去虫干す/小宅光子
木の葉髪かたみに過去を修飾し/馬場移公子
過去見る目止める術なく芹きざむ/谷口桂子
木の葉髪小さく束ねて過去失くす/毛塚静枝
桔梗やいつより過去となりにけむ/油布五線
榧の実を踏んで一気にもどる過去/大嶋邦子
樹氷林あゆみて過去へゆくごとし/奥坂まや
重ね著の師のうつくしき過去未来/勝又一透
俳句例:181句目~
泣きし過去鈴虫飼ひて泣かぬ今/鈴木真砂女
鐘の音の過去へ過去へと雪に消ゆ/本岡歌子
降る雪や過去へと時間舞ひはじむ/鈴木正治
人の世の過去へ過去へと雪降れり/三村純也
白菖蒲過去なくて人生きられず/稲垣きくの
秋風の過去も未来もかきまぜる/いそべ恒基
雪眼鏡そびらに過去を流しつつ/文挾夫佐恵
消せぬ過去引きずり行くや蝸牛/岩下千枝子
霜焼の小指が過去を覚ましけり/丸田余志子
粟の穂のこの明るさを過去という/伊藤淳子
青き踏む青春遅々に過去のもの/佐野まもる
風の盆めまいの如く過去のあり/岸本マチ子
縷紅草のびては過去にこだはらず/中村秋一
餅食ふや貧しき過去を身にまとひ/相馬遷子
鵙の贄思ひ出さねば過去は無し/岡崎るり子
菊供ふ過去あるのみの師の遺影/嶋田摩耶子
かたつむり殻のうちそと過去未来/中北政巳
過去の悲しみ一隅に在り春の星/阿部みどり女
過去というときめき真空パックにする/森須蘭
木の葉髪過去はうしろに捨てるもの/森川光郎