俳句例:101句目~
干菜湯に曠野の匂ひ少し嗅ぐ/上野さち子
平和なる薄荷の自分嗅ぎにけり/攝津幸彦
幼な児に胸嗅がれをり日脚のぶ/高橋良子
手掴みの香の素肌を嗅げとこそ/西村和子
投降せし日の夏草と思ひ嗅ぐ/増田三果樹
春の夜の枕嗅ぐやら目が腫れた/上島鬼貫
春の駒乳を嗅いでは駈けまわる/佐伯清翠
朝寒の露次出づ犬の嗅ぎ跟き来/石塚友二
木洩日が蟻の前後を嗅ぎまはる/上井正司
木犀の匂ひ嗅ぎたくても鼻炎/小林かいう
椿いくつも嗅ぐ恋人のなき旅は/宮坂静生
榠?嗅ぎ風聴く顔となりゐたり/中川美亀
死ぬは誰柱を蝶の嗅ぎゐるは/河原枇杷男
水仙の夜はけものを嗅ぎにけり/久保純夫
水仙の花嗅ぎをれば日のめぐる/太田鴻村
嗅いで買ふくさやの干物春隣/鈴木真砂女
煤逃げの一歩を猫に嗅がれけり/落合水尾
熱帯夜刃物のにほひ嗅ぐ猫や/大塚千光史
牧草に倦きて仔馬や旅の荷嗅ぐ/香西照雄
犬に杖嗅がれてゐたり枯るる中/村越化石
俳句例:121句目~
独活の香の手を嗅せたる妾かな/尾崎紅葉
河原なでしこ嗅ぎし記憶の乳母車/汎馨子
瓜坊の嗅ぎたる棒の倒れけり/西田美智子
眉ゆたかなり爪立ちて梅嗅ぐや/太田鴻村
老境の入口に立ちばらを嗅ぐ/猿橋統流子
胸元を牛に嗅がれて厚着の子/木附沢麦青
芍薬を嗅げば女体となりゐたり/山口誓子
苗札を犬来て嗅げり朝まだき/下村ひろし
葉鶏頭犬に嗅がせてゐたりけり/大石悦子
蓬香を嗅ぐ刹那さへひとの妻/堀井春一郎
虫声惻々雨月の黄菊我も嗅がむ/北原白秋
蟻ひたすら日向の土を嗅ぎにけり/中田剛
蟻喰いのそはそは春の土を嗅ぎ/高澤良一
誰よりも遅く歩いて梅を嗅ぐ/関口比良男
贄熊に嗅ぎよる犬を箭で叱る/水野波陣洞
車前草の花ゆきずりの犬が嗅ぐ/岩崎/潮
隣る女に硝煙を嗅ぐ旅程の中/林田紀音夫
雀ねらふ猫平然と春蘭嗅ぐ/長谷川かな女
雪嗅いで鼻醒めし馬や騎始/安斎桜カイ子
いつ咲きし昼顔を犬嗅ぎにくる/小巻豆城
俳句例:141句目~
飾臼を仔牛の濡れし鼻が嗅ぐ/木場田秀俊
馬が嗅ぐ残雪工場に文化滅ぶ/田川飛旅子
おほぎやうに牡丹嗅ぐ娘の軽羅かな/蛇笏
駈け出でる駒も足嗅ぐすみれかな/千代尼
鳥が附いて一本松の島を嗅げり/安井浩司
こまやかな薄荷の花を摘みて嗅ぐ/上村占
たんぽゝの土嗅ぎゐしが馬交る/佐藤念腹
てのひらを犬に嗅がるる夏の雨/永末恵子
とっつきの梅の一輪嗅ぎゐたり/高澤良一
のうぜんは脳破る花そを嗅ぐな/高澤良一
畜生の桔梗の芽を嗅ぐなかれ/長谷川かな女
薔薇の花に鼻つけて嗅ぐ香の薄き/正岡子規
白衣のまゝ春の臭ひを嗅ぎに出る/藤後左右
鶏頭の匂ひを誰も嗅ぎにゆかず/岩淵喜代子
無聊さの船尾を嗅いで犬ともなり/藤後左右
ふと羨し息しろじろと地を嗅ぐ犬/川口重美
真似て嗅ぎ牡丹に顔をそむける子/高澤良一
梅嗅いで老いたりと云う若きなり/橋石和栲
神農の虎に微醺を嗅がれをり/牟田口吾鬼生
古寺うらを犬が嗅ぎおり現世かな/和田悟朗
俳句例:161句目~
杉の実の匂いが好きだ嗅ぎすぎた/金子兜太
何処かに水葬犬が嗅ぎ寄る秋の海/三橋敏雄
鼻の利く蚊なり酒の香嗅ぎつけて/高澤良一
一蝶を嗅ぎまはすと月山も影か/河原枇杷男
リラ嗅いで青空がすぐうしろかな/宮津昭彦
末黒野を来て野良犬に嗅がれたり/加藤憲曠
蝿生れむかしの蕩児嗅ぎあてし/亀田虎童子
行き当たる小石を嗅げるだんご虫/高澤良一
林檎嗅ぎうしろの山も春待てり/新谷ひろし
春の跫音犬に嗅がれて蝌蚪沈む/田川飛旅子
退屈な猫に嗅がせて草石蚕かな/ふけとしこ
鉄を嗅ぐごとく海鼠に屈みたる/正木ゆう子
われ嗅ぎしあとくちなしの花の錆び/山口速
芳草を嗅ぎ足らはして戻りけり/徳永山冬子
注連縄に藁の香嗅ぎし今年かな/新谷ひろし
お十夜の小菊嗅がれて買はれけり/高澤良一
火串消えて鹿の嗅ぎよるあした哉/正岡子規
折りとりて君に嗅がする枯荏かな/飯田蛇笏
みつまたの花嗅ぎ断崖下の処女よ/西東三鬼
菓子屑を嗅ぎつけ来たる蟻ならん/高澤良一
俳句例:181句目~
ぼうたんをついと嗅いでは離る人/高澤良一
風の町すみれ嗅ぐにも父似の鼻/大木あまり
海が嗅ぎよるいま内乱の花びら/八木三日女
帰るさも嗅ぐ雪折れの木の折れ口/池田澄子
炭を出す嗅ぎよる犬に声をかけ/稲垣きくの
ふろふきや猫嗅ぎ寄りて離れけり/小沢昭一
花のちる夜はけだものと地を嗅ぐ/富澤赤黄男
おしまいの花火嗅ぐかにかなしめり/松本恭子
みな嗅ぎてへくそかづらの花なりけり/小澤實
茅花嗅ぐわれは如何なる風ならむ/河原枇杷男
牛の嗅ぐ舎人が髪や葵草/蝶夢「草根発句集」
木蓮を牡丹といひて嗅ぎをりぬ/阿部みどり女
水の匂ひ嗅ぎし眼を上げ妻恋ふ鹿/鷲谷七菜子
新蕎麦を嗅ぎてもの憂し猫の目は/殿村莵絲子
瑠璃揚羽わたしのにおい嗅ぎにこよ/鎌倉佐弓
屍室まで抱きゆく菊を看護婦嗅ぐ/伊丹三樹彦
水を嗅ぐモーツアルト忌の冬の虫/大木あまり
目で冬のけもののごとくわれを嗅ぐ/栗林一石路
くちなしの香を嗅ぎて寄るひとのあと/山口誓子
鹿の子が箒の先を嗅ぎにくる/斉藤史子「絵絣」