俳句例:101句目~
原宿早朝半壊ビルに蝶など来て/伊丹公子
地蔵盆路地なくなりしビルの街/稲垣芳子
夕焼と木枯を濾す硝子のビル/田川飛旅子
大阪の冬日やビルにひつかかり/京極杞陽
蝌蚪の穴にビル傾けてガラス拭/古舘曹人
寒き会議いずこかビルの奥毀す/中島斌雄
工事ビルネットの中に夜業の灯/篠田悦子
施工帆布の諸羽搏つビル眼鏡青め/堀葦男
日脚伸ぶ吾が家に重きビルの影/小塚勇太
昼寝覚め遥けきビルマより還り/馬場檜青
朝焼けて異次元界のビル見ゆる/仙田洋子
未完のビル昆虫に似て夜の枯木/大井雅人
梅雨深しビルは窓枠より亡び/和田耕三郎
植樹祭とビルの高さを眼前に/中村草田男
母等老ゆ蛇の存在ビルから見え/阿部完市
燕ほどの自由もなくてビル勤め/菖蒲あや
片陰を拾ひてビルに吸はれたる/稲畑汀子
生涯を終へしビルにも風光る/稲畑廣太郎
竜天に登りぬビルの谷間より/天岡宇津彦
絶え間なく砂のながれる北のビル/穴井太
俳句例:121句目~
花八ツ手ビル解体をにぎやかに/斉藤夏風
造成地にビル建つまでの秋夕焼/寺岡捷子
道修町のビルの植込み笹子来る/松崎亭村
遺伝子に取り組むビルや盆の月/野村洋子
開襟少年空港ビルの屋上駈く/加藤かけい
雪つのる高みへとビル影しぼる/仲村青彦
霧深く山を覆ひぬビル灯る/阿部みどり女
青北風や光るほかなきビルの窓/宇咲冬男
靴音をビルより落とし後の月/富川三枝子
鬼やんまビルの谷間を水平に/田口美喜江
ざらつく胃壁冬陽に晒す官庁ビル/穴井太
鴉がいる差押さえのビル反り返る/神山宏
名月やビルすれすれに浮かびくる/大倉園子
ビル谷間羽化するごとく月のぼる/藍不二子
秋惜しむビルの谷間のカフェテラス/林康子
新海苔やビルに老舗の暖簾かけ/黒米松青子
べつたら市へ裏口開けて問屋ビル/奈良文夫
軍艦と呼ばるるビルやいなびかり/上谷昌憲
解体ビル死屍のごときを吊る暑し/上井正司
梅雨晴れ間ビルからビルヘ靴光る/吉原文音
俳句例:141句目~
一匹の蟻がビルより降りて来る/葛西たもつ
梅雨霽れ間ビル立体を欠きて並む/宮武寒々
秋晴の盆地のビルを人翔びたつ/福田甲子雄
ノイローゼ高ビルの谷に秋を凄み/藤森成吉
歩せば濃き春愁ビルマ僧に逢ふ/神尾久美子
ビルの灯を淡しとおもふ桜の夜/片山由美子
ビル棲みの昼夜灯してカラジウム/河野絢子
殴られて壊れるビルや三鬼の忌/高野ムツオ
芽吹くものビルの谷間に遅れけり/山田一男
ビルの中に水母舞ひをり音を消し/矢島渚男
新月のビルマに在りて寝釈迦かな/久米正雄
聖路加のビルに日のさす梅雨晴間/青木政江
ビルになる大きな穴や初しぐれ/小野たけし
ビルを出て遅日の街にまぎれ入る/井本農一
ビルの間を侏儒めく歩み年惜しむ/杉本和子
煙霧濃き聖樹担がれビルに入る/殿村莵絲子
我らビルに囚われ鳥の渡る日も/守谷まもる
稲荷狐と目が会う迂闊/ビル屋上/森早恵子
ビルの間の老舗さきがけ松立つる/和田暖泡
ビルの間に迷ひ落ちたるはたた神/斉藤葉子
俳句例:161句目~
打音のビル耳にみどりの昆虫いて/金子兜太
ビルの谷間の風はどこへ帰るのか/カズ高橋
遊船にマンハッタンのビル櫛比/保田白帆子
運河春風ビルの窓より花買はれ/神尾久美子
五月きぬビルは真白き艦のごと/金尾梅の門
還らざるものよ野に寝せ怒声のビル/隈治人
銀紙はおしゃべりビルに月おぼろ/江田立美
夕立に気づかぬこともビル暮らし/川俣藍子
すっかり春我等がビルも霞に入る/高澤良一
日雀来るビルの谷間の薄日差し/野田しげこ
メーデーやビルはすこしく傾きぬ/清水昇子
終戦記念日ビルヘ出前のそばすゝる/島田不拘
ビルから人間も神様もこぼれている/鹿又夏実
蛍売りがきてくらくするビルの裾/田邊香代子
べつたら市ビルのあはひの夕日どき/草村素子
ビル谷間に基地を捜すたんぽぽの絮/小山君子
十まで算める子にビルの窓多すぎる/小原敏代
ビル街に行きどころなき銀杏散る/久米谷和子
水の秋ビル工事の人空をあゆみ/鍵和田ゆう子
海彦のうしろの正面ビルかげろう/諸角せつ子
俳句例:181句目~
包帯した指たててゆくビルの内部/五十嵐研三
ビルの日曜黄落はげしく市電過ぐ/河野多希女
雨ほそしビルの扉つよく押して入る/藤木清子
プール児童の叫喚返すビルの壁/鍵和田ゆう子
凍つる夜のビルの壁画の未来都市/和田耕三郎
ビルからビルヘ鴉声直線午後4時の/伊丹公子
ボロ市のビルマヒスイと言ふけれど/高澤良一
馬が来る/涙にじませ/ビルを負ひ/鷲巣繁男
春雷やこのほど建ちしビル九層/久保田万太郎
あきさめのビル街ふかくわがゆける/藤木清子
天地無用のビルにて蟹が茹で上がる/夏石番矢
粘土のビルによこたわり居り白い時間/阿部完市
武者ねぶたビル押し分けて罷り出づ/阿久津凍河
夕焼けビルわれらの智慧のさみしさよ/阿部完市
かねやすもビルとなりたる秋暑かな/鈴木しげを
工事中テントはためくビルは海になる/段証尚子
妻のゆうれいビルにぶつかる自転車は/西川徹郎
新緑もビルも流れて子を産みに/森田智子「全景」
冬日が陰影を與えてビルを墓石とした/吉岡禅寺洞
ビルの便所で見た顔と葬式の日に出会う/仲上隆夫