俳句例:101句目~
浮世なほ酒に酔ひ哭く秋のくれ/中川宋淵
海豚哭くまつくらがりの港かな/岡田耿陽
涅槃像猫も目つぶり哭きにける/岸風三楼
涅槃哭く尾のあるものは尾を抱へ/檜紀代
涅槃図の余白は風の哭くところ/土生重次
炎天に哭けとこそあり捨て寝墓/小林康治
白象の耳もて哭けり涅槃絵図/安田新参子
神奈備に雪兆し哭くは男弟一柱/高柳重信
膝くづすラガーは風へ哭くごとし/石寒太
蝶あげて摩文仁の谷の風哭けり/影島智子
蟹二つ食うて茅舎を哭しけり/松本たかし
背伸びする骨を哭かせて秋の風/片山依子
ある闇は蟲の形をして哭けり/河原枇杷男
おんおんと海を哭かせて流氷来/加藤未英
ひとり世を哭して山河爽やかに/石原舟月
霜哭かせ事務の痩身きしむなり/奈良文夫
まぼろしの鹿も来哭くか年守る/巌谷小波
もういない黒猫が哭く壁の中/倉阪鬼一郎
風の盆八尾は哭きに来るところ/白根順子
風哭いて湖北いよいよ冬に入る/成宮紫水
俳句例:121句目~
もののふの仰向くは哭く菊人形/向田貴子
風哭けばみるみる鶴の棒となる/山田岳星
風除に憑きて哭く風夜もすがら/河野石嶺
よよと哭く梅雨の地獄の納め髪/渡辺恭子
鬼百合よきのうもが燃えて哭く/坪内稔典
之を哭し之を笑ふや地虫出づ/相生垣瓜人
冬滝の哭きやみてより氷りけり/小林康治
鰯網にかゝりて海豚哭きにけり/萩原麦草
古りし絵に象の哭きをる青あらし/上村占
鵯の世を悲しみて哭く鵯もあり/藤後左右
鶴の舌赤銅の日に哭きただれ/富澤赤黄男
闇に居て哭きたい訳は虫に聞け/小出秋光
哭かむまで炎天の澄みまさりけり/小林康治
喪の衿の哭くほかはなし菊抱きて/都筑智子
片蔭やいたこ哭くことくり返し/木附沢麦青
晩涼の津軽じょんがら哭き三味線/高澤良一
啼鳴や運河も昏れて哭くときあり/三橋鷹女
哭といふかたちにも見え蕗のたう/友岡子郷
白桃をひとりがむきてひとり哭く/黒田杏子
哭く木偶に婆のつれ泣き村芝居/岡部六弥太
俳句例:141句目~
まっすぐに佇てば紫苑の哭けもせず/桂瑞枝
哭くものは哭かしめ涅槃し給へり/野中亮介
チャップリン笑い犬哭き夏終わり/高澤晶子
油の柱にかくれて神は哭きたまう/夏石番矢
哭くために生まれ合はせて涅槃変/三村純也
なべて晩秋愁雲散り瀬は咽び哭き/福田蓼汀
どこまでも刈田母呼び哭けとこそ/黒田杏子
哭きにゆくふるさとのあり合歓の花/加藤浩
鎌たたみ哭くいぼむしり涅槃絵図/尾崎浅陽
蝉鳴くごと哭くは父の死以来なし/原子公平
別当時化ぶつかり磯の木々哭けり/高澤良一
泣くことをおぼえて哭けり恋猫は/大西泰世
さながらと眠るが如と凍死哭す/中村草田男
茫々と馬哭きければふる木の実/富澤赤黄男
葬人の歯あらはに哭くや曼珠沙華/飯田蛇笏
流氷の哭く夜は聖書読むと言ふ/小枝秀穂女
干し草に哭く少年のせくすありす/星永文夫
零の中爪立ちをして哭いてゐる/富澤赤黄男
夕暮れへさめざめ哭いている青田/斎藤白砂
頭を垂れてをりしが哭けり寒夜明/小林康治
俳句例:161句目~
涅槃像あなんの顔のとはに哭く/吉岡禅寺洞
母哭かす夢の子日焼けいつも笑顔/福田蓼汀
朝覚め僕の胸踏んで哭く悪魔たち/楠本憲吉
涅槃図に入りたし切に哭かんため/水巻令子
汝もわが弔辞に哭くやつばくらめ/古舘曹人
湯に入るや胼の手足を天ンに哭き/尾崎迷堂
夜なべ妻がたと崩折れ哭きにけり/岸風三楼
擲たるるや崩れ哭くこと意識する/鈴木しづ子
狐哭くぽつぺんを吹く老人のように/上原勝子
手当つれば胃の辺で哭ける海鼠とも/高澤良一
沢女哭きつつ山を下れば踏まずの浜/高柳重信
雲湧きて襤褸のごとしいたこ哭く/村上しゆら
哭くまじき面ラあげてゐし火桶かな/小林康治
死にたしと迫りて哭きし過去の雪/稲垣きくの
尺蠖の哭くが如くに立ち上り/上野泰「佐介」
霧笛寒くうから寝落つや哭くごとし/小林康治
端居して老いの語りの哭いてをり/櫛原希伊子
粉屋が哭く山を駈けおりてきた俺に/金子兜太
吼ゆるとも哭くとも鯨さびしき海/田井三重子
冬うらら海鳴らぬ日は墓も哭かず/成瀬桜桃子
俳句例:181句目~
子のあれば子を哭く春の霙ふる/おぐまふさこ
乾鮭を吊るすラッセルまた哭きすぐ/細谷源二
ゴーギヤンに佇ち哭むまで梅雨明り/小林康治
梅雨さむく嬰児哭けるはいつしんに/岸風三楼
もう哭いてをれぬ日傘を開きけり/河野緋佐子
天の川佐渡に夜哭きのほとけたち/つじ加代子
深夜かな蝶の聲にて哭いてみむか/河原枇杷男
流氷が哭く夜けもののように逢う/新渡戸流木
べたべたに卯の花哭かむばかりなり/杉山岳陽
濡れに出る卯の花腐しもう哭かぬ/稲垣きくの
涅槃図に入りて哭きたき日のありぬ/伊東みのり
きっぱりと凍夜晴れたり哭くものなし/村越化石
いつまで余後僕踏んで哭く朝のサタン/楠本憲吉
ぽきぽきと折れば野が哭く曼珠沙華/萩原/麦草
まだ哭いてゐる涅槃図を巻きにけり/木村淳一郎
凍てる廊にころび哭きけり声あげて/長谷川かな女
残暑雲動かず家婦は縫い物に伏して哭す/喜谷六花
黄は哭かむ黄は哭かむ菜の花と検非違使と/折笠美秋
あかゞりや飯欲り哭けば猿の顔/『定本石橋秀野句文集』
河鹿鳴けり杉山に杉哭くごとく/高柳重信「山川蝉夫句集」