俳句例:101句目~
亡き母の貼りし障子を洗ひけり/松尾隆信
亡き母へ手向けの写経寒燈下/近江小枝子
亡き母を語るもまれに花魁草/三田きえ子
亡き母顕つ胎中のわれ逆しまに/中村苑子
亡母が呼ぶ錯覚椿落ちにけり/小野寺教子
亡母の声とまがふ吉野の薺売り/三宅美穂
初夢の亡き母なぜに化粧ひせる/藤田湘子
同行に亡き母たのむ山桜/いのうえかつこ
唐黍を亡き母のごと子に頒つ/石田あき子
夏菊に亡母けろけろと在すらん/今井竜蝦
亡き母へ友も摘みをり野紺菊/古賀まり子
巻き戻す亡母の一生濃紫陽花/石井紀美子
水打つや生きる父より亡母恋し/寺田京子
水餅の水くぐるとき亡母のこゑ/吉田鴻司
泣いて居る夢の亡母や春かすみ/倉田弘子
ころげ落つ亡母の持薬や寒の入り/鈴木勝夫
盆提灯揺るるは亡母の来たるらむ/笹目翠風
菊根分けこうして亡母へ近づける/加地英子
やすやすと亡母の齢くる野紺菊/つじ加代子
亡き母に似ると言はれて負ひ真綿/永田青嵐
俳句例:121句目~
亡き母がふところにゐる懐爐かな/国弘賢治
盆花にふるさとおもへ亡き母よ/成瀬櫻桃子
草を摘むわが亡き母の名は占野/深川正一郎
亡き母にかしづくひと日夏桔梗/大岳水一路
落葉掻くは亡き母の後ろ姿かな/大須賀乙字
亡き母に僧の来てゐる暮春かな/大岳水一路
子どち亡母似の痩身東風の棺担ぐ/奈良文夫
亡き母のいつか来て在す花月夜/沼尻巳津子
亡き母のこゑ肩ぐちに夏大島紬/平井さち子
秋蝶のまつはりくるは亡き母か/宇佐美ふく
移植せし亡母の柘榴が咲きくれし/奈良文夫
亡き母のものがたりして生身魂/阿波野青畝
亡き母の部屋も灯してクリスマス/山田閏子
亡き母の知るべの人やゆきのした/大石悦子
亡き母の羽織を借りし歌留多かな/岩田由美
慈悲心鳥の声聴く亡母と霧に濡れ/鷲見緑郎
日傘さして亡き母が往く交差点/長谷川治子
朝日千筋亡母くる径に柘榴咲く/磯貝碧蹄館
亡母つりしままの簾に夜々いこふ/吉野義子
小鳥がつくる冬風の網亡母の恋歌/寺田京子
俳句例:141句目~
留守電のランプに亡母かと冬の宿/金城幸子
亡き母を知る人来たり十二月/長谷川かな女
亡母を練るアジアの花の花野かな/攝津幸彦
亡き母の形見の牡丹根分け来る/三戸/良子
枯蟷螂かろがろ亡母はてのひらに/渡辺恭子
虫干しや亡母のたたみし袖を解き/今泉貞鳳
蚊火焚くや亡き母います筈もなく/尾崎迷堂
亡き母の口真似墓地の蚊に刺され/川村紫陽
角巻や寺参りの亡母まなうらに/五十嵐英夫
負真綿亡母のかたみのぬくしとや/三浦光鵄
走馬燈暗きあたりに亡母のこゑ/山田みづえ
鉄線花歌錆びし亡母のオルゴール/榎本愛子
濡れ縁に亡母が来てゐる萩明り/つじ加代子
亡母恋ひし電柱に寄せよごれし雪/細見綾子
菊を焚く香に亡母念ふやや癒えて/石田あき子
亡母も脚みじかかりしよ茄子の馬/斎藤江都女
亡き母が座せしは夢かげんげん田も/小川公子
亡き母に叱られさうな湯ざめかな/八木林之助
今年竹木戸に亡母佇つおもひして/つじ加代子
亡き母のないないかぶりかいつぶり/攝津幸彦
俳句例:161句目~
亡き母のみつめゐし菊焚きにけり/八牧美喜子
炭負ひて亡母かとも見え父来ます/木附沢麦青
父と呼び亡母をつぶやき夜着かぶる/松原文子
着ぶくれて亡母の貫禄わが継がむ/石田あき子
神の留守亡母の手が鳴る形見分け/相原左義長
青紫蘇を摘んでも亡母にもう逢へず/高橋智代
亡父亡母を知る万歳師来て泣けり/海老名衣子
亡き母のサンダル借りて落葉掃く/高野美奈子
火蛾の灯に読んで亦泣き亡母の手記/樹生和子
鵙来し空濯ぎていつか亡母に似る/神尾久美子
山羊撫して熱き手晩涼の亡母に示す/友岡子郷
花のなか亡母のおもみのかさね重箱/河野多希女
逢へぬ亡母ふたりアカシヤ樹下の秋/神尾久美子
亡母も夏帽凭れば木の扉がひらくなり/友岡子郷
つひに句碑へ母の日の亡母背負ひ来し/渡辺恭子
こゝから先は振向かぬ亡母曼珠沙華/磯貝碧蹄館
冬の夜や亡き母の手蹟誰れも知らず/佐野青陽人
亡き母にさそはれて種子まきにけり/きくちつねこ
亡母への悔いおびただし紫蘇花ざかり/平井さち子
嗅ぎよりぬ亡母が挿木のつゝじの芽/長谷川かな女
俳句例:181句目~
予備のわらぢだいじに亡母が冬嶺越す/磯貝碧蹄館
母の日や塩壺に「しほ」と亡母の文字/川本けいし
亡母恋ひし火恋し寝に入るのみの部屋/平井さち子
田平子出づ亡母の眼いまも腫れぼたし/磯貝碧蹄館
見えない亡母たんぽぽの黄に日が聚まる/磯貝碧蹄館
亡き母は夢にも来ずよ盆仕度/『定本石橋秀野句文集』
亡き母と言はず描いて顔から手が出てゐる/栗林一石路
梅雨寒や亡き母の猫わが手舐め/肥田埜勝美「太郎冠者」
真夏日の茄子紺/亡母の好きな色/中田敏樹「デ/キリコの箱」
亡き母の位牌の裏のわが指紋さみしくほぐれゆく夜ならむ/寺山修司