俳句例:101句目~
ピアノ鳴りあなた聖なる冬木と日/西東三鬼
毀れたるピアノは眠りほととぎす/白地恭子
睡蓮の明暗たつきのピアノ打つ/中村草田男
時雨るゝやピアノの上の孔雀の羽/原コウ子
水底にピアノを聴けり五月の夜/文挟夫佐恵
厚物咲ピアノカバーの裏は緋に/中戸川朝人
ピアノの音湯宿の萩も刈られたり/桜井博道
ピアノ弾くからだの中の白夜かな/浦川聡子
日盛りやとぎれがちなるピアノ曲/福見敦子
恋猫が屋根に居るピアノを叩く/加倉井秋を
聴きなれしピアノの底の前世かな/田中信克
秋は神学ピアノのかげに人さらい/寺山修司
春遠しピアノの椅子に帽子置き/加倉井秋を
今年竹指しなやかにピアノ弾く/上田五千石
乾きつつピアノ出てゆく石蕗の花/中村文子
秋苑やかんがりとして鳴るピアノ/中川宋淵
秋来ると五指生き生きとピアノ打つ/台迪子
片手づつさらふピアノや遊蝶花/岡部名保子
狂ひたるピアノ/エチュード寒茜/仙田洋子
虫の夜をピアノ小刻みダリエンソ/高澤良一
俳句例:121句目~
ピアノの奥に湾の広がる帰燕かな/大石雄鬼
秋日沈むピアノを強く弾きさして/中島斌男
寒夜まだピアノ弾く娘と妻起きて/伊東宏晃
子ごろしの山茶花映る淡いピアノ/西川徹郎
銀漢といふにはうすしピアノうつ/安東次男
雪や子の喜憂はげしくピアノ弾つ/中村明子
ダリエンソ手練手管のピアノの涼/高澤良一
雪激しピアノ売りたる夜のごとし/櫂未知子
セロリ移植学校二学期ピアノ鳴る/大熊輝一
わがたのむピアノ弾く手や手袋す/田中敬子
ピアノ習ひに寺にくる子よ桃花村/八木林之介
手をふれてピアノつめたき五月かな/木下夕爾
蔦若葉ピアノシヨパンを弾き止みぬ/神谷勝美
いまここにピアノの音欲し露の庭/山口波津女
こがらしをピアノ売りたる部屋にきく/澁谷道
国境のよう麦秋にピアノ捨てられて/遠山郁好
死者らの瞳に指あふれしめ野のピアノ/隈治人
あねはあおさぎ漆黒のピアノに映る/金子弘子
赤ん坊のくさめピアノの手を止むる/石田安雄
妻と其の寒気凛々しきピアノの音/中村草田男
俳句例:141句目~
昇降機降り玩具のピアノ鳴らす梅雨/宮武寒々
梅ひらく階をピアノのように降り/吉田透思朗
弾つ放して誰そ我がピアノ夏埃/竹下しづの女
乙女薔薇そのまま凍ててピアノ鳴る/小串歌枝
白菜きざまむ音階高きピアノ購はむ/藤後左右
三味線もピアノも弾けて芙蓉咲く/梶山千鶴子
ヒアシンス弾かぬピアノの上に置き/稲垣鷹人
悲しいとき隠れるためにあるピアノ/船山邦子
ピアノ大きく坐り木の芽のかげさせり/太田鴻村
遠きピアノ書を閉ぢ外套を着てかへる/中島斌雄
白南風や古きジャズ弾くピアノ/バー/角川春樹
バレンタインの日なり山妻ピアノ弾く/景山筍吉
秋茄子をもぐやどこかでピアノ鳴る/加倉井秋を
しぐれ来る弾かぬピアノと肖像画/ながいとおる
滴りの本流となる夜のピアノ/猪股恵美「本流」
自動ピアノ鳴りだす鉄板の肉を焦がし/星野昌彦
クロッカスいきなりピアノ鳴り出しぬ/宮岡計次
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し/西東三鬼「今日」
弾き初めのピアノつつかえつつかえす/田川飛旅子
ピアノは地ヴァイオリン春の空ながる/八牧美喜子
俳句例:161句目~
長女ピアノを欲しがる雨が漏るので困る/中台春嶺
処女二十歳に夏痩がなにピアノ弾け/竹下しづの女
弾き初めのあともピアノを弾きつづけ/山口波津女
もとの位置にピアノと花瓶あたたかし/伊藤いと子
海へゆくにはまだはやきピアノ鳴つてゐる/川島彷徨子
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ/塚本邦雄