俳句例:201句目~
外套を着て触れし世の募金箱/宍戸富美子
外套や大いなる世に押されつゝ/徳永山冬子
妻のものへ外套冬鳶のごと掛ける/吉田鴻司
外套の襟を立て東京の隅へ帰る/加倉井秋を
寒波来や外套のボタンつややなる/椎橋清翠
外套の電車待つ間を往たり来たり/島田青峰
干しひろげ死者の外套大いなる/赤松ケイ子
外套に降り来る火山灰は目に見えず/森田峠
外套をはじめて着し子胸にボタン/細見綾子
外套に捜るニューヨーク行き切符/対馬康子
母が着物売つて買ひきし外套ぞ/成瀬櫻桃子
毛布外套なんど蒲団にかけて寝る/寺田寅彦
患者診るや外套敢へて脱がずして/相馬遷子
外套にくるまつて聞くラジオかな/富田潮児
壁に外套そのほかに妻と子を遺し/右城暮石
吾子を抱く外套のまま手套のまま/鷹羽狩行
外套の釦手ぐさにたゞならぬ世/中村草田男
外套の背に一些事をささやかれ/椿/作二郎
貝の洋書読む外套に品よく老い/田川飛旅子
足袋外套脱ぎ散らさでや孤独慣れ/石塚友二
俳句例:221句目~
おそき芽のごとし外套の重さ着て/宮津昭彦
外套を着せらるる手をうしろにす/池田秀水
かの日より壁の外套うごくなし/徳永山冬子
オーバーにかくす己れをなほ愛す/河野南畦
つとめやめ外套古びたることよ/手島清風郎
ボタン落ちて急に片輪の春外套/長谷川秋子
オーバーの胸雪まみれ逢ひに行く/茨木和生
オーバーの裏には泳ぐ児をかくす/対馬康子
人の外套を持つて笑つて醒めをる/喜谷六花
オーバーの裏地の破れひとり知る/工藤克巳
オーバーを羽識つてむかひあひ更けぬ/篠原
オーバー濡れかすかつ模様浮いて来ぬ/篠原
外套を脱がずどこまでも考へみる/加藤楸邨
妻の留守オーバーの儘火をおこす/畠山譲二
手錠の手隠すオーバー羽織りやる/中村鎮雄
外套の姿勢正しく「飲みませう」/川崎展宏
連立ちしオーバーの端子が掴み/猪俣千代子
外套を着て過去のみがあたたまる/内藤吐天
かかれゆく担架外套の肩章は大尉/長谷川素逝
地図をよむ外套をもて灯をかばひ/長谷川素逝
俳句例:241句目~
妻の外套の隠しを探す抱くごとく/田川飛旅子
わつぱ飯肩かけのまゝ外套のまゝ/殿村菟絲子
義父の死におどろきはおる外套重し/森川暁水
オーバーに今日の吾が身を包みけり/稲畑汀子
女流書家みどりの外套着て華奢に/柴田白葉女
外套を着せ居り夫が負ふことのみ/殿村菟絲子
オーバー重し太陽燃ゆるゴッホの絵/野村慧二
オーバーの背中がものを言ふことも/山田弘子
明日ありやあり外套のボロちぎる/秋元不死男
オーバーの軽さ吾が身のうつろなり/上松康子
外套やこころの鳥は撃たれしまま/河原枇杷男
外套を脱ぐバルザツク富士が立つ/磯貝碧蹄館
うしろより外套被せるわかれなり/川口美江子
知己のなき満座の中やオーバー脱ぐ/皆川白陀
ある時の書肆に外套のわれひとり/軽部烏頭子
首筋のすうすうオーバー羽織り初め/高澤良一
オーバー脱げばオーバー重し死を悼む/津田清子
オーバー買ふ迄街を行く金のぬくみ/加藤知世子
ルオーの絵見しよりオーバー重たしや/石谷秀子
吾子の四肢しかと外套のわれにからむ/沢木欣一
俳句例:261句目~
冬も終りの外套数珠とマッチが出て/伊丹三樹彦
遠きピアノ書を閉ぢ外套を着てかへる/中島斌雄
オーバーぬがず新宿夜話を語り去り/成瀬正とし
バレンタインデー外套着せて貰ひけり/松山足羽
オーバーをぬぐ間も子等のぶら下る/庄崎以知太
外套の手深く迷へるを言ひつゝまず/河東碧梧桐
胸射ぬかれし外套を衣を剪りて脱がす/長谷川素逝
著せかけてオーバーの名をちよと読みぬ/長尾樟子
オーバーを着せかけしのみ何も言わず/今井千鶴子
アイスクリームに厚き外套脱ぎ給へ/長谷川かな女
古びたる外套の肩に雨そそぐ既にして叛き離れし妻の/大野誠夫